第15話 やっぱり【聖なる光】に守られた!?

 私が魔塔界へ召喚されて、三日目の朝。

 キッチンで朝食を作ろうとしているとライトが起きてきた。


「おはようヒマリ。早いね、どうかした?」

「おはよう。えっと……昨日、朝早いって言ってたから……」

「……ふーん? べつにオレの機嫌を取ろうなんて思わなくても大丈夫だよ。オレ、朝はトーストとコーヒーって決めてるし」


 ライトはそう言って、テキパキと自分でパンを焼き、コーヒーを入れ始めた。

 機嫌を取ろうなんてつもりはなかったけど、心のどこかに「家主に好かれなきゃ」って気持ちはあったかもしれない。

 これはきっと、私が必要以上に気を遣わないようにっていうライトなりの配慮なんだろうな。


「そういえばヒマリ、昨日ダークに姿が見えなかったのなんで?」

「え? それは私がききたいわよ……。私、べつに幽霊ってわけじゃないのよね?」

「いやまさか。……でもじゃあ、ヒマリが認識阻害の魔法を使ったわけじゃないってこと?」

「私にそんなことできるわけないでしょ……」


 相変わらず疑い方が予想斜め上すぎる!

 私自身はただの人間だって言ってるのに!

 ……いや、ステータス画面に「魔神ライトの召喚獣」で「選ばれし聖女」って書かれてるから、普通の人間ではないかもしれないけど。


「……まあ、うん。そのはずだと思ってはいるけど。でもダークはオレの父親で、魔神としてそれなりの力を持ってる。だからダークにまったく気づかれないほどの魔法って、余程の実力がないと不可能なんだよね。しかもあんな咄嗟に、今のオレでもできるかどうかだいぶ怪しいよ」

「そうなのね」


 でもあれはどう考えても、私の姿も声もまったく認識できてなかった。

 ライトとキールには見えてるのに……。

 もしかして、「選ばれし聖女」であることと関係ある?

 ――そういえば【聖なる光】って力があったわね。

 説明が「いろんなことに役立つ光」としか書かれてなくてよく分からないけど、まさかこれに助けられた?


「――ねえ、仮に私がダークに見つかってたら、まずかった?」

「うーん、あまり好ましくはないかな。ヒマリを一族に関わらせたくない。……でもなんで? まずかったら何か心当たりがあるの?」

「えーっと……」


 どうしよう? ライトのこと、信用してみる?

 相手に心を開かせたいなら、まずは自分からっていうし。

 でも、魔族と聖女って敵対してるイメージしかない!


「……ライトって、自分のステータスを見れたりする?」

「ステータス? オレの経歴や出生を証明できる書類があるかってこと?」

「そういうことじゃなくて、なんかこう、画面が出てきたりとか……」

「画面……?」


 どう説明したらいいんだろう?

 でもこの感じだと、多分ステータス画面は一般的じゃない気がする!


「えっとね、実は私、自分のステータスが画面に表示されるんだけど。そこに属性って欄があって、魔神ライトの召喚獣って書かれてるのよね」


 私はひとまず、知られても問題がなさそうな部分を話してみることにした。


「その画面って今出せる?」

「……今も出してるんだけど、多分私にしか見えない。ちなみにほかの人のは分からなくて、あくまで自分のステータスが見える感じね」

「ええ、何その特殊魔法……。それって自動で更新されるの?」

「それはちょっと分からないけど、恐らくは」


 アニメやラノベにありがちな「ステータス画面」にも馴染みがないだろうし、そりゃあ混乱するよね! なんかごめん!


「ヒマリが召喚獣扱いなのは当然オレも分かってるんだけど、でも認識阻害の効果なんか付与した覚えないんだよね……」


 ちなみにライトによると、召喚獣として拘束されている間、召喚獣は主より弱い相手からの一般的な攻撃を跳ね返すことができるらしい。

でもその件については書かれてないのよね……。

――ってことは、「魔神ライトの召喚獣」として得た力の詳細は記載されない?


「あとは思念伝達での会話ができる。でも付与される効果はそんなもんだよ」

「じゃあ魔族の言葉や文字が分かるのって、その思念伝達のおかげなのかな」

「人間を召喚したことがなくて分からないけど、可能性はある」


 召喚魔法って、ただ召喚するだけじゃないのね。

 思った以上にすごい魔法だったわ。


「思念伝達って、私から始めることもできるの?」

「あー、一応できるとは思うけど、緊急時以外での使用は極力控えてほしいかな。仕事中だとタイミングによってはちょっと……」

「そっか、分かったわ。聞きたいことは家で聞くわね」

「助かるよ」


 ――でもじゃあ、認識阻害とやらはライトの力じゃないのか。

 ってことは、やっぱり私【聖なる光】に守られた?


「ヒマリは召喚魔法が失敗した結果ここにいるから、正直ちょっと状態が読めないところがあるんだよね……」

「まあでも、とにかく見えなくてラッキーってことよね?」

「一応はね。発動条件もその範囲も、まったく分からないけど」


 それならまあいっか。

 危険人物には見られないに越したことないわけだし。

 ライトやキールには、ちゃんと見えてるみたいだしね!


「――うあ、やばい時間が! 悪いけどまたあとで!」

「あっ、待って! 掃除用具の場所ってどこ?」

「えっ!? ああ、ええと……一階のランドリールームの端!」

「分かった。いってらっしゃい」


 ライトは慌ててコーヒーでトーストを流し込み、その場から消えた。

 よし、私も頑張るぞ!

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