第14話 キールの思いと二人の関係
「じゃあオレはこれで。おいしい料理ありがとう」
「あっ、待って! その――ちょっとだけお話しない? 聞きたいことがいっぱいあって……」
「えっ? ……まあいいけど」
「ありがとう! 待ってて、何か飲み物持ってくる!」
私はいったんキッチンへ行き、二人分の紅茶を淹れて戻った。
「あ、ありがとう。……で、聞きたいことって?」
「キールってライトのサヴァントなのよね? さっきの怪我はライトがやったの?」
「あー、うん。うっかり魔力レンジを爆発させちゃって、お仕置きされた」
キールは、はは……と乾いた笑いを漏らした。
――やっぱりそうなんだ。
ライト、あんな可愛い顔して本当にそういうことするんだ……。
「でも昨日のは完全にオレが悪いし、あれはむしろ優しかった方だよ。多分、オレが空腹に耐えきれなくてやむを得ず侵入したって気づいてたんじゃないかな」
「それであれ!? 分かってたならあんなひどい仕打ち――」
「普通、どんな事情があっても、サヴァントがそんなことしたら殺されて終わる。相手がライトだからあの程度で済んでるんだよ。まあそうはいっても普段はもっと容赦ないし、いっそ殺してくれって思うこともあるけどな!」
キールは自嘲気味にそう言って、震えを誤魔化すように自分の腕抱いた。
でもたしかに、さっきのライトの目は本当に怖かったな。
いつもの――って言ってもまだ会って間もないけど――とにかく私の知ってるあの子じゃないみたいだった。
これまでにも片鱗を覗かせることはあったけど。
「そう、なのね……」
――本当なら、私が助けてあげるって言いたい。
でも、ライトがいなきゃ生きられない今の私じゃ、【癒しの料理】で癒すことくらいしかできない。
せめてここが日本なら、少しの間匿うくらいはできたかもしれないのに。
私はどうして、いつもこんなに何もできないんだろう?
助けてもらうばっかりで、迷惑かけるばっかりで、全然役に立てない。
自分で自分が嫌になる……。
「!? え、ちょ――なんでおまえが泣くんだよ!? ごめん! ごめんって! べつに怖がらせようと思ったわけじゃ――」
「――え? あっ、えっと……これは違うの。ごめんね」
いつの間にか泣いていたらしく、キールは私を見ておろおろしている。
本当、相手は多分十二歳だか十三歳だかくらいの子どもなのに。私が泣いてどうするのよ……。
私は慌てて涙を拭き、どうにか心を落ち着けた。
「――そういえば、さっき私を守ろうとしてくれたわよね。ありがとう」
「えっ? あー、まあ、うん。べつに。だっておまえ世間知らずっぽいし、オレのせいで鞭打たれたら嫌だと思って……。オレはまあ、慣れてるから……。そっちこそ、助けてくれてありがとう」
キールは恥ずかしそうに視線を逸らし、ごにょごにょとそう言った。
鞭……なるほど、あの傷はそういう……。
ということは、相当ひどく打たれたのね……。
ライトもキールも、こうやって個人的に話すと優しい良い子なのにな。
どうにかできないものなんだろうか……。
「私が暮らしてた世界と常識が違いすぎて、頭がついていかないわ」
「あはは。でも何もしてくれなくていいから、ヒマリは今みたいに優しいままでいてくれたら嬉しいな。そしてたまにでいいから、こうしてオレとも話を――なんて。まあオレの我儘だけど」
――我儘だなんて思わないのに。
そんな壊れそうな、なのにどこか諦めたような顔しないで言わないでよ。
大人なんだから助けてって喚かれた方がよっぽどマシだわ。
「私は無力だけど、キールのこと好きよ。だから辛いことがあったらいつでも会いに来て」
「……うん、ありがとう。でも、これからいろいろ見ることになるかもしれないけど、できればライトのことも嫌わないでやってほしい。怖いけど、根はいい奴なんだ、あいつ」
キールは、少し悲しそうに笑ってそう言った。
ひどい目に遭わされていても、サヴァントという立場でも、この子はライトのこと嫌いじゃないのね。
それならやっぱり、もう少しライトのことを信じてみてもいいかもしれないな。
ここは日本じゃないどころか地球ですらない、魔族が暮らす世界なんだから。
きっと私には分からない、理解が及んでいないことがたくさんあるんだわ。
「……分かった。いろいろと教えてくれてありがとう」
「うん。オレもここにはよく来るから、何かあればまた聞いて」
「――待って。それって、侵入するって意味じゃないよね?」
「あー、いや、まあ最近は、大抵は普通に来るだけだよ」
視線を逸らすなあああああああああああ!
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