第13話 この子もなかなかに懲りないわね!?
「――ま、待ってライト。違うのよ」
「何が違うんだよ。というかなんで二人が一緒にいるの? どういう状況?」
「キッチンで物音がしたから、ライトが帰ってきたんだと思って……。そしたらこの子がいて、怪我してて……」
「へえ? じゃあやっぱりあの食べかけのパンはおまえか。うちのキッチンはおまえの食糧庫じゃないんだけど?」
あれ、なんか言っちゃいけなかった雰囲気?
またってことは、もしかしてよくあることなの??
「この子、多分おなかすいてたのよ。きっとライトがいなかったから仕方なく――」
「違う。オレがいないと思ったから入ったんだよ。こいつは常習犯だからね」
キールが尋常じゃない怯え方をしているのは、きっとひどい目に遭わされるって分かってるからだわ。
ど、どうしよう? 止めないと。
「ライトは、私に二階のキッチンは好きに使っていいって言ったわよね?」
「……言ったけど」
「なら、私が作ったものをキールに食べさせても問題ないんじゃない?」
私がそう言い返すと、キールは驚いた様子でこちらを見る。
そして、急にあたふたし始めた。
「いや、待ってライト。こいつは関係なくて――」
「関係なくないわ。この子がひどい怪我をしてたから、私が作って無理矢理食べさせたのよ」
「おまえ本当、頼むからいったん黙って!?」
そうつっこんだキールは憔悴し、心底私を心配しているように思えた。
もしかしてこの子、私がひどい目に遭うと思ってかばってくれてる……?
「……なるほどね? まあ勝手に侵入してる時点で問題だけど。でもそこから先はヒマリがやったってこと?」
ライトは、探るような目でこちらをじっと見る。
が、どこかこの状況を楽しんでいるようにも思えた。
「そうよ。私が自主的にやったの」
「――ふーん。まあ、ヒマリに好きにしていいって言ったのはオレだしね。それなら今回は、特別に不問ということにしといてやるよ」
「――え!?」
「……何キール、不満なの?」
「いいいいいやいや、そうじゃないけど!」
キールは力が抜けたのか、その場にへたりこんで呆然とライトを見ている。
許されたのがそんなに衝撃だったのかな。
「じゃあこの話はもうおしまい。キールは今日どうすんの? うちに泊まるの?」
「え、あー。できれば泊めてもらえると助かる。ちょっとキルスを怒らせてて……」
「また!? ――はあ。落ち着いたら謝れよ。部屋は空いてる部屋勝手に使って」
ライトは呆れた様子でため息をつきつつ、あっさり了承した。
というかキールも、あんなに怯えてたのに泊まるんだ!?
何なの、いったいどういう関係なのこの子たち。
全然読めない……。
「あ、そうだヒマリ」
「ひゃい!? な、なに?」
考え事をしてたせいで、うっかり変な声が出てしまった。
「夜は家で食べるからよろしくね」
「わ、分かったわ。えっと、その……」
「……ほかは好きにしたら? じゃあオレは自室でもう一仕事するから」
私がキールを気にしていることに気づいたのか、ライトはそれだけ言って部屋を出て行った。
「た、助かった……。ヒマリ、ありがとう。実は一昨日から何も食べてなくて……」
「う、ううん。それよりキール、あなた常習犯なの?」
「あー、いや……まあ。昨日はうっかり魔力レンジを爆発させて、結局何も食べられなかったうえ散々な目に遭ったよ……はは……」
もしかして、私が料理できることに安堵したのってこの子のせい?
いやそんなことより、この子のせいでますますライトとサヴァントの関係性が見えなくなったんですけど!?
下僕だとか駒だとか言ってたけど、キールはライトに敬語ですらなかったよね?
しかも家に侵入して盗み食いする常習犯!?
「――と、とにかく、もう勝手に侵入しちゃだめよ?」
「それはまあ……善処する」
この子もなかなかに懲りないわね!?
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