第12話 傷の治療、からの修羅場(?)

「おまたせ。はいこれ食べて。白身魚と三つ葉、卵が入った雑炊よ」

「……おまえこんな勝手なことして、ライトに怒られても知らないからな」

「大丈夫よ。キッチンは好きに使っていいって言われてるから」

「ええ……」


 少年は困惑したような疑うような目で私を見ていたが、どうやら空腹には勝てなかったらしくしぶしぶ食べ始めた。

 ちなみに白身魚は、味見した際には鯛のような味がした。

 見た目も鯛の切り身だったし、きっとそう見て間違いないはず。


「――っ! うまっ!? ああ、こんな不審者が作った料理なんて食べたら、あとでライトに半殺しにされるかもしれないのに……」

「半殺しってそんな物騒な……。あと不審者じゃないから!」

「……なあ、よく分からないけど、これ本当にライトの許可取ってんのか? もし嘘なら今のうちに逃げた方がいいぞ。おまえ悪いヤツじゃなさそうだし、今ならこれに免じて黙っといてやるから」


 少年は、急に真剣な目でこちらを見る。

 キッチンは自由に使っていいって言われてるし、そもそも私はライトのせいでここにいる。だから何も後ろめたいことはないけど。

 でも、さっきからこの少年が発する言葉が妙に気になる。


「えっと……どうして?」

「どうしてって……ライトの屋敷に忍び込んで何事もなく帰れるわけないだろ。鬼畜だとか鬼だとか言いたいことはたくさんあるけど、それ以前にあいつ一応魔神だぞ」


 まあそれはそう。

 忍び込んだなら普通に犯罪だしね! 多分!


「忍び込んでないわよ。ライトの部屋と地下室以外は好きにしていいって言われてるし、この部屋もライトが貸してくれたの」

「え、どういうこと? おまえここに住んでるの?」

「――待って。そういえば、あなたには私が見えるのね? あなたも魔神一族?」

「……はあ? 見えてるに決まってるし魔神なわけないだろ。おまえ本当に何なんだよ……。オレこれどうしたらいいやつ……?」


 少年は、なぜか頭を抱えてしまった。


「というか、そっちこそ何なの? さっき謝ってたけど、あなたこそライトの許可はちゃんと得てるの?」

「い、いやそれは――って待ってストップ。……は? え?」


 ふふ、どうやらちゃんと【癒しの料理】の効果が表れ始めたみたいね。

 キールの体にあった傷や痣が、だいぶ薄くなってきた。よかった!


「とにかくまずは食べて。話はそれからにしましょう」

「…………」


 少年は何か言いたそうだったが、大人しく雑炊を完食した。

 痛々しかった傷はみるみるうちに薄くなり、食べ終わって少しすると完全に消滅してしまった。


「あ、ありがとう……。これってどういう――いや、今はそんなことより。どういう事情でここにいるのか知らないけど、あんまり舐めたことしてると地獄を見るぞ」

「ちょっと、舐めたことってなによ。せっかく治してあげたのに」


 うーん。

 これだけライトのこと知ってる風だし、親しいってことでいいのよね?

 だったらまあ、言ってもいいか。


「実は私、ライトに召喚されたのよ」

「は? 召喚……?」


 私は少年に、ここにいる事情を一から説明した。

 ――この子、「少年」で合ってるのよね?

 やけに線が細いというか、骨格が男性っぽくないというか……。

 痩せてるだけ?


「――なるほど、それでライトの家で好き勝手してんのか」

「そういうこと。それで、あなたは?」

「オレはキールだよ。ライトのサヴァント……って言っても分かんないか。あれだよ、ええと……駒みたいな下僕みたいな……そんな感じかな」

「サヴァント!?」


 ついにサヴァントと会ってしまった。

 それにしても、駒みたいな下僕みたいなって……。

 サヴァントって本当にそういう扱いなんだ。

 じゃあさっきの傷って、もしかしてライトがやったの?

 なんかこう、転んだり打ったりして自然にできた傷には見えなかったのよね。


「……そ、そうなんだ。キールっていうのね。私は朝宮陽葵。陽葵でいいわ。ねえキール、さっきの傷って――」


 そこまで話したところで、バンッと勢いよくドアが開けられた。

 いくら自分の家だからってそんな勢いよく――!


「ちょ――ノックくら」

「キール! おまえまた勝手に――!」

「――あ、パン……しまっ――! いや……これは……」


 パン? さっきかじってたあれかな?

 そういえば持ってないわね。キッチンに置いてきちゃったのかな?

 キールを見ると、半泣き状態で青ざめ震えていた。

 ライトは見る者を凍らせるような、ゾッとするほどの威圧感を放ちながらキールを睨みつけている。


 いやいやいやいや。

 こんなの子どもが出していいオーラじゃないでしょ!

 よく分からないけど、今はこのキールって子を守らなきゃ! 多分!

 私がここで負けるわけにはいかないわ。


 ――でも今、ライト「勝手に」って言った? やっぱりこの子泥棒なの!?

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