第三章 赤髪の少年(?)キール

第11話 キッチンに誰かいるうううう!?

 ライトとダークが去ったあと、私は体を触って自分が透けていないことを確認し、ほっと胸をなでおろした。

 よかった、多分大丈夫そう。

 ライト、最初会ったとき召喚に失敗したって言ってたし、一瞬ヒヤッとしたわ。

 いったい何だったんだろう?


「――まあいっか。どうせ考えても私には分からないわよね」


 とりあえず、私はこの家で料理を作ってお金を稼ぐ!

 ついでに、余裕があったらほかの家事も少しくらい手伝えるといいな。

 ライト忙しそうだし、この家のことを知るきっかけにもなりそうだし。


 ライトの家はとても広く、テレビやネットで見た西洋の貴族の屋敷くらいある。

 多忙な中で現状を保っているのは素直にすごいと思うが、それでもよく見ると手入れが行き届いているとはいえなかった。

 たまにサヴァントを連れてきたり誰かを雇ったりするって言ってたから、定期的に片づけはしてるんだろうけど。


「今は誰も雇ってなさそうだし、ついでに掃除と洗濯もやっちゃおうかな」


 祖母が死んでからずっと忙しくしていたからか、暇だと不安で落ち着かない。

 誰かのお荷物でいる生活なんて、私はもう――。


「掃除用具、どこにあるんだろう? 聞いておくんだったわ」


 洗濯――も、やり方が分からないわね。

 キッチンには家電っぽいアイテムが充実してたし、同じ感じで洗濯機もあるとありがたいんだけど……。


 私はまず二階から探し始め、ライトの部屋がある三階へと向かった。

 何となく、三階がライトのプライベートなエリアなのかなと思ったからだ。

 三階へ行くと脱衣所とお風呂は見つかったが、洗濯機など洗濯をできそうな用具もスペースも見当たらない。洗濯物もない。

 ――が、代わりにランドリーシューターのようなものが壁に備え付けられていた。


「――ってことは、洗濯する場所は一階ってことね!」


 私は一階へ降りて、ランドリーシューターが繋がっているであろう場所へと向かってみた。

 あったああああああ!


「――これよね? すごい、コインランドリーにあるやつくらい大きい! しかも乾燥機能もついてる! これならシーツや毛布も洗い放題だわ!」


 ついでに私の服も洗濯しちゃおうっと♪

 私は二階にある自分の部屋へ行き、洗濯物を持って降りた。

 私の部屋からもランドリーシューターで落とせればいいのに!

 二階は客人用のエリアって言ってたし、防犯上の問題が出てくるからかな……。


「えっと……洗剤はこれね。文字が読めて助かったわ」


 私は洗濯機(仮)に洗濯物をつっこみ、洗剤をセットしてスイッチを押した。


「――これでよし、っと。成功したらほかの洗濯物も洗っていこう。洗い終わるまではどうしようかな? というかこの家、間取り図がほしいわね……」


 そんなことを考えながらランドリールームで回る洗濯物を眺めていると、ガチャリと玄関の扉が開く音がした。


「あれ、もう帰ってきたのかな……」


 階段を上る足音が聞こえたのち、どこかのドアが開けられる音がした。

 また出かけちゃうかもしれないし、先に掃除用具の場所を聞いておこう。


「――ライト、よね?」


 さっきみたいに、魔神が突然やってきたとかじゃないよね……?


 なんとなく不安になった私は、足音を立てないよう、そっと階段を上った。

 ふと見ると、キッチンのドアが半開きになって隙間から光が漏れている。

 なんだ、やっぱりライトか。よかった。


「ライト? あの、ちょっと聞きたいことが――」

「うわあ!? ごめんなさいこれはちょっと今――って誰!?」

「誰!?」


 キッチンにいたのはライトではなく、見知らぬ赤髪に赤い瞳の少年だった。

 歳はライトより少し上くらいだろうか?

 髪は肩辺りまでで少し外側にはねていて――って、今パン隠したよね!?

 ってことは泥棒!?

 いや、そんなことより――。


 かじっていたバケットのようなパンを慌てて後ろに隠したその少年は、体のあちこちに傷や痣ができていて痛々しい。

 足音は、玄関から迷うことなくキッチンへ向かったように感じた。

 ということは、この家のことをよく知ってるってことよね?

 もしかしてライトの知り合いかな……。


「あの……ライトの知り合い? その怪我どうしたの?」

「え? いや……えええ。おまえ誰? 泥棒?」


 赤髪の少年は、混乱した様子でうろたえている。

 しまった、この子がライトの知り合いなら、怪しいのはどう考えても私だわ。

 なんて説明したらいいのこれ!?

 召喚されたって、話してもいいこと??


「えっと……違うの。怪しい者じゃないわよ。ちょっと手違いがあって……。ってそんなことより怪我の手当をしないと。今ライト留守なのよ。こっち来て」

「え? お、おう。いやでもこれは――」


 私はライトにもらった自室へ少年を連れて行き、ソファに座らせる。


「少しそこで待ってて。すぐ戻ってくるから」

「え、いや、ちょっ――」


 私を引き留めようとする少年を置いて、私はキッチンへ向かった。

 お昼にフレンチトーストを食べたライトの傷が治ったなら、あの子の傷もスキル【癒しの料理】効果で治せるかもしれない。


 ――さて、何を作ろう?

 さっと作れて体に優しそうなものがいいな。


「――ん? これってお米? お米あるんだ! それなら――」


 たしか、冷蔵庫に白身魚と三つ葉があったわね。

 これと卵で雑炊にしよう!


 私は鍋に水とお米、箱の説明によると魚で作られているらしい粉末だし、生姜を入れて加熱していく。

 お米に火が通る手前くらいのタイミングで白身魚を加え、最後に醤油で味を調えて、卵を溶き入れて三つ葉散らした。


 ――できたー! にしても、まさかお米があるなんて驚いたわ。

 なんとなく異世界にはないものと思ってた!

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