第10話 魔神の料理担当になった!

「――え? 働きたい? お金のことは気にしなくていいよ。オレが出すから」

「そうじゃなくて、自分で稼いだお金がほしいのよ」


 夜、私はライトに「何か仕事がしたい」と伝えてみた。


「……うーん。悪いけど、ヒマリに紹介できる仕事はないかな」

「ええ……。なら、ライトのサヴァントは? 今は募集してないの?」

「……ヒマリ、ここであまり軽率なこと言うと、自分が泣くことになるよ」


 私はふと思いついて何気なくそう言ったのだが。

 ライトは一瞬顔をしかめ、それから強い視線をこちらへ向けてそう言った。


「……どういうこと? サヴァントって配下にいる魔族のことよね? 今だって実際は召喚獣なんだから似たようなものでしょ?」

「今は魔族社会の外にいる人間だから、ヒマリには可能な範囲で自由にしてもらおうと思ってる。でもサヴァントになれば話は変わってくる。――まあそもそも、人間が契約に耐えうるのかも知らないけど」


 契約に耐えうる……?

 サヴァントって、なんかそういうポジションだと思ってたけど、何か特殊な契約のもとにいる魔族ってことなの?


「あれは、そうならないと生きられない魔族がなるものだよ。まあオレに物理的な形で命をにぎられて、絶対服従を強いられたいなら止めないけど。ちなみに地下の牢屋や拷問部屋は、サヴァントに罰を与えるときにも使う」

「えっ――?」

「……まあそういうことだから。あまり迂闊にそういうこと言わない方がいいよ」


 え、何? どういうこと?

 サヴァントって、もしかして奴隷か何か?

 物理的な形で命をにぎられるってどういう状況???

 聞きたい……けど、この子の裏――いや、表? 外での顔が怖くて聞けない……。

 こんな可愛い顔をした美少年がそんな――って思いたいけど、ライトが時折見せる鋭い目つきや表情がちらついて、否定しきれない自分がいた。


「あはは、オレのこと怖くなった? ヒマリは物分かりがよくて助かるよ」


 私が黙り込んでいたからか、ライトはふっと笑って軽いノリでそう言った。

 そのギャップは余計に怖いわ!


「――あ、そうだ。サヴァントはおすすめしないけど、それなら料理を作ってよ。ヒマリの作る料理はおいしいし、なぜか回復効果があるし。朝は自分で適当に食べるから、それ以外を任せられると嬉しい」

「え、それはもちろんいいけど、そんなことでいいの?」

「オレとしてはその形がベストかな。助かるし、面倒ごとも発生しにくいだろうし」


 料理なら好きだし、それなりに自信もある。

 それでいいなら私も役に立てるかも!


「じゃあ私、ライトの料理担当になるわ!」

「分かった。支払いは月末でいい? いくらほしいの?」

「うーん、この世界の相場が分からないし、そこはライトの判断に任せるわ」

「了解」


 若干丸め込まれた感があるけど、まあいいか。

 仕事は仕事だしね!


 こうしてとりあえずの今後の過ごし方が固まって、「さて頑張るぞ!」と意気込んだそのとき。

 目の前に突然黒い光が渦巻いたと思ったら、そこから一人の男性が現れた。


「ライト、今いいか?」

「!? だ、ダーク!?」

「――まだ何も言ってないぞ。何をそんなに焦ってんだ?」


 ライトより少し長い漆黒の髪と鋭く冷たい目を持つ男性は、整った顔立ちで、どことなくライトに似ている気がする。

 ライトは顔つきが怖いわけじゃないけどね。

 この男性、もしかしてライトのお父さん?


「――あの、ダーク、この人はその」


 ライトは私の方をチラチラと気にしながら、明らかに動揺している。

 私のこと、知られちゃまずかったのかな?

 これまでに聞いた話から察すると、この男が魔神一族の誰かだった場合、ライトでは勝てない。つまりライトの方が立場が弱く、逆らえないことになる。


 しどろもどろになりながらも言葉を探すライトのこめかみを、冷や汗が伝った。

 それを見て、私も緊張と恐怖で身動きが取れなく――なっていたのだが。


「……この人? 誰かいるのか?」

「――――え?」

「えっ!?」


 ダークと呼ばれた男は怪訝な顔をして、キョロキョロと周囲を確認し始めた。

 私の方を向いても私と目が合うことはなく、完全にスルーされてしまう。


「――もしかして、私のこと見えてない?」


 うっかり出してしまった声に気づく様子もない。

 ライトにも状況が読めていないようで、見ると唖然として固まっていた。


「……あ、いや、何でもない。ちょっと訓練と勉強のしすぎで疲れてたみたい」

「はあ? おまえそんなんで本当にあの計画を遂行するつもりか?」

「あはは。まあその話は今は――。それより何か用事?」

「ああ、クロードが呼んでるぞ。なんかやらかしたんじゃないのか?」

「え……。わ、分かった。すぐ行く」


 ライトは一瞬チラッとこちらを見て、それからダークと一緒に消えてしまった。


「――え、どういうこと? 私の体、透けてないよね!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る