第9話 やっぱりまずは料理かな?

「どうしたいって、どういう意味? 何ならさせてくれるの?」

「そのままの意味だよ。分かりやすく言うなら、間違って召喚しちゃっただけだからヒマリに用はないけど、帰せないからオレの管理できる範囲で好きにしていいよってこと。ちなみにこれが今日の本題」

「なっ――!」


 たしかにすごく分かりやすいけど!

 でもちょっとストレートすぎない!?

 そんな淡々と真顔で言われても!

 ……でもそうか、まあそうよね。べつに私に用があるわけじゃないもんね。

 だからこそ、この子なりに私の考えも尊重しようとしてくれてる――のかな?


「……突然そんなこと言われても答えられないわ」

「そっか。まあゆっくり考えてよ。でも本当に危ないから、うちの敷地からは出ないでね。あと前も言ったけど、オレの部屋と地下室には入らないこと。それさえ守ってくれれば好きに過ごしていいから」

「分かったわ。というか、地下には何があるの?」

「いろいろだよ。倉庫とか、ヒマリを召喚してしまったあの実験室とか。あとは牢屋と拷問部屋もある」


 牢屋と――拷問部屋!?

 き、聞くんじゃなかった……。


「そ、そう……」

「外は時間があるときに案内するよ。あとヒマリはここでの生活に不慣れだし、誰か世話係をつけた方がいいよね。ちょっと適任者を考える」

「世話係って……いいわよそんなの。身の回りのことは自分でできるし」

「一応、監視の意味もあるから」

「……あっそう。じゃあお任せするわ」


 監視なんかつけなくても、べつに何もしないのに!

 でもライトは忙しいみたいだし、話し相手はほしい気持ちもある。

 そういう意味では、世話係をつけてもらうのもありかもしれないわね。


「じゃあそういうことで。オレは仕事に戻るよ」

「また仕事!? ライトずっと仕事してない?」

「魔神っていってもオレは下っ端だからね。それに訓練や勉強もあるし。ほかにもいろいろと――。とにかくオレも考えるから、ヒマリも考えてみて」


 ライトはそれだけ言って、姿を消してしまった。

 転移魔法での移動を見るのも、だいぶ慣れてきた気がするわ。

 でもやりたいこと――か。なんだろう?


「――やっぱり、まずは料理かなあ?」


 ロタスみたいな、ここならではの食材もあるみたいだし。

 それに【癒しの料理】は、唯一私が武器にできそうな力だと思うのよね。

 料理が好きで本当によかった!


 あとは本も読みたいな。

 本当は外へ出て散策もしたいけど、それは今すぐには無理そうよね。

 でもお屋敷が広いからしばらくは飽きずに過ごせそう。

 とはいえ、異世界へ来たからには町の様子も見てみたい。

 きっと、まだまだ知らない食材や調味料がたくさんあるんだろうなあ……。

 でも――。


「そのためには、まず何か仕事を探さないとね!」


 私がこの世界に来ちゃったのは、たしかにライトのミスが原因だけど。

 だからって、あんな子どもに養ってもらう生活なんて心苦しいし。

 自分で稼いだ自由に使えるお金がほしい!

 時間があるときに外も案内してくれるって言ってたし、私にもできる仕事があったらいいな。


 私は朝食に使った食器を洗いながら、自分がここで何をするべきなのか、何ができるのかを考えた。


 ――にしても、ライトってこれまでどういう生き方をしてきたんだろう?


 私はライトを見ていて、何となく放っておけない気持ちになっていた。

 あのふいに見せた、孤独に沈んでいるような壊れそうな表情が忘れられない。


 魔神一族の末裔って言ってたけど、こんなに広い屋敷なのに使用人が一人もいないし、命令には慣れてそうなのに何かと自分でやろうとするし。

 あの年齢で、生きてはいるらしい父親と別々に住んでいるのも気になる。

 まあそこは、この世界ではそういうものって可能性もあるけど。


 ……偉そうに上から目線で脅してくるのは本当にやめてほしいけど、でもああなったのには理由があると思うのよね。あるって信じたい!

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