第7話 二日目の朝ごはんと、この世界のこと
翌朝、朝ごはんを作りに二階のキッチンへ行くと、ちょうどそのタイミングでライトがやってきた。
「おはよう。ライトも今起きたの?」
「――おはよう。いや、オレは五時起きだよ。今ちょうど一仕事終えて戻ってきたところ。ヒマリはよく眠れた?」
五時起き! 悪魔って夜型のイメージがあったけど、思った以上に早起きなのね!
「うん。おかげさまで」
「ならよかった。今日、これから今後について話し合いたいんだけど、いいかな。聞きたいこともたくさんあるだろうし、そういうのは早い方がいいと思って」
「そうね。ぜひとも」
この世界のことも「魔族が暮らす世界」としか聞いてないし、魔神やロードの立ち位置も、配下にいるサヴァントとやらの関係性も、これからどうしていけばいいのかも分からない。
「うん。その前に、ヒマリは何か食べるよね?」
「そうね。ライトはもう食べたの? 食べてないなら一緒に作るわよ。サラダ作って、パンと目玉焼きとベーコン焼くくらいだけど」
「え? ……そう、だね。じゃあ食べようかな。もうすぐお昼だし」
「えっ!?」
思わずキッチンの時計を見ると、すでに十一時を過ぎていた。
部屋に時計がなかったから、時間が分からなかったのよね。
時計も買ってもらわなきゃ……。
「私だけ遅くまで寝ててごめんね。すぐ作るから待ってて」
「? いや、べつにヒマリに用事ないし、好きにしたらいいと思うけど。むしろ下手に動き回られるよりは寝ててくれた方が――」
それはまあそうだろうけど! でも言い方!
私は簡単なサラダを作り、トースターでパンを焼きながら、フライパンで目玉焼きを作りつつベーコンをこんがりと仕上げていく。
ドレッシングは、オリーブオイルとレモン汁、塩コショウでシンプルに。
「よし、できた!」
「運ぶのはオレがやるよ。ヒマリは座ってて」
半分に切ったトーストと目玉焼き、ベーコン、サラダを平皿に載せ――たタイミングで、ライトがテーブルへ運ぶのを手伝ってくれた。
「ありがと。ライトって意外と気が利くよね」
「……そう、かな? まあヒマリにやってもらう理由もないからね。オレのミスで誤召喚しちゃったわけだし」
――ああ、そっか。なるほどね。
この子、私を召喚しちゃったことを後ろめたく思ってるのか。
「もういいわよ。どうせ帰っても一人だし。社畜生活に戻るだけだし」
「……怒ってないの? こんな世界に拉致同然で連れ出されて、しかも帰れないのに」
「怒っても帰れないのは確定なんでしょ?」
「それはそうなんだけど……。というか本当、なんでオレ間違って召喚しちゃった人間と一緒に食事してるんだろう?」
ライトはそこまで言って、頭を抱えてしまった。
まったくもう。しょうがないな!
「一緒に暮らしていくんだから、仲いい方がいいじゃない。そんなことより、まずは冷めないうちに食べましょう。ねっ?」
「う、うん……。なんかヒマリと話してると、力が抜けそうになるよ……」
「抜いてもいいのよ? べつに誰かに言いふらすわけでもないんだし。いただきまーす!」
「……いただきます」
うん、今日もおいしい! さすが私ね!
外はカリッと中はもっちりに焼かれたパンと半熟の卵、カリカリベーコンの組み合わせは、世界共通の正義だと思うわ。
そんなことを思いながら朝食を食べていると、ライトが再び口を開いた。
「――やっぱりヒマリの料理はすごいな。午前中に消耗した体力がどんどん回復していく。……それに、こうして誰かが作ってくれた料理を食べるっていいね」
ライトはそう言って、ふっと表情を和らげる。
「ふふ、それはよかったわ」
「――本当は、何も知らずにいてほしいって気持ちもあるんだけど。でもそうはいかないと思うし、先にこの世界のことを伝えておくね」
「そうね。それはいい加減聞こうと思ってた」
「まず、ここは魔塔界っていう、魔族の最上位種である魔塔族が暮らす世界だよ」
「魔族の最上位種……。悪魔とはまた別ってこと?」
魔族って、悪魔や魔女みたいな空想上の生き物としては当然聞いたことあるけど。
ほかにもいろいろいるのね……。
「うん。ちなみに悪魔は、魔界に住んでるワンランク下位の魔族だよ」
「魔族は魔族でも、それぞれの世界があるってことなのね」
「うん。で、魔塔界の王として君臨しているのが魔神一族――つまりオレを含むブラック一族ね。オレは最年少でまだ見習いだけど。ちなみに魔神一族は、王であると同時に全魔族の原種を造った神でもある」
お、おお。つまり王であり神であり……魔族で一番すごいってことね!
――というか待って。造った!? え、今この子、造ったって言った???
そっか、神様だもんね。そういうこともある――よね。
……うん。思った以上にすごかったわ。全然分かってなかった!
「魔神一族ってすごいのね」
「……あはは、そうだね。本当に、バケモノすぎて頭が痛いよ」
思わず口をついて出ただけだし、何なら褒めたつもりだったんだけど。
ライトはそう言って、なぜか苦しそうに笑った。
その真意は、私には当然分からない。
でも、深い絶望の中にいるような、なのに救いを求めることすらできず泣くに泣けないような、そんな危うさをライトから感じた。
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