第二章 魔神ライトの苦悩

第6話 ハンバーガーとポテトは異世界でもセットらしい

 晩ごはんは、ライトがハンバーガーとポテトを買ってきてくれた。

 ハンバーガー、魔界にもあるのね!


「ありがとう。でも言ってくれれば作るのに」

「おいしいものを食べれば、少しは気も紛れるかなと思って。それともこういうのは嫌い? 一応、人間も好みそうなものを買ってみたんだけど……」


 ライトは、少し不安そうにこちらの様子を探ってくる。

 そっか、知らない世界に飛ばされた私を元気づけようとしてくれたのね。優しい!


「ううん。ハンバーガーもポテトも好きよ。――じゃあ私、サラダだけ作るわ!」

「いいの? じゃあお願いしようかな」


 私は冷蔵庫からレタスとトマト、それからパプリカを出して、簡単なサラダを作ることにした。

 ハンバーガーとポテトがあるなら、あまり重くない方がいいよね。

 ドレッシングは――よし、あれにしよう!


「できたわ」

「ありがとう。こっちに簡易的なダイニングルームがあるから、そこで食べよう」


 ライトがキッチン横の内扉を開けると、そこはダイニングルームになっていた。

 簡易的といっても部屋はそれなりに広く、中央には重厚感のある大きな長方形のテーブルと、椅子が八脚並んでいる。

 ちなみに、客人を呼んだ際に使う場所は別で一階にあるらしい。


「……これで簡易的なの? すごく立派なダイニングルーム」

「そう? 一応魔神だからね。上級魔族を呼ぶこともあるし、何かと必要なんだよ。どこでも適当に座ってて」


 ライトは特に自慢するでも謙遜するでもなく、当然のことのようにそう言いながら、ハンバーガーとポテトを入れたお皿、サラダを入れた深皿とカトラリーをふよふよと宙に浮かせている。


「それ、魔法? すごいね。便利そう」

「え? ――ああ、うん。ヒマリの謎の回復付与の方が何倍もすごいけどね」


 ライトは一瞬「?」というような顔をして、それから苦笑する。

 魔法が一般的な世界では、この程度の魔法は基礎中の基礎なのかもしれない。

 でも、私からしたらとんでもなく魅力的な力だわ。


「飲み物は何がいい?」

「何があるの?」

「えーっと……コーヒー、紅茶、牛乳、ジュース、炭酸水、水、くらいかな。細かく言えばほかにもいろいろあるけど」

「じゃあ炭酸水にしようかな」

「了解。レモンとシロップはいる?」

「えっ? う、うん。じゃあお願い」


 ライトはキッチンへ戻り、それから間もなくグラスに氷入りの炭酸水にレモンの輪切りが入ったものを二つ持って戻ってきた。

 本当に、やることが十歳の男の子とは思えなくてびっくりするわ。


「それじゃあ――いただきます♪」

「い、いただきます」


 ふふ、ライトにも「いただきます」の文化が定着しそうで嬉しいな。

 そしてレモン入りの炭酸水、甘くておいしい!

 炭酸のレモネードみたいな味がする……!


 ――考えてみたら私、家で誰かと食事をする生活ってすごく久しぶりだわ。

 まあここ、私の家じゃないけど。

 でもそれを言い出したら、ある意味お母さんが死んでから一人暮らしを始めるまで、ずっとそうだったしね……。


「この挟まってる野菜、おいしいね。レタスとセロリの中間みたいな味と食感」

「――ああ、ロタスっていうんだ。人間界にはないんだっけ」

「私は見たことないなあ」


 スライスされたセロリの茎部分のような見た目をしているその野菜は、シャキシャキと歯ごたえがよく清涼感があって、しっかり味つけされたジューシーかつ肉々しいハンバーグともよく合っていた。

 ポテトも、アンチョビポテトのような味つけがされていてとてもおいしい。


「……このサラダにかかってるドレッシングって、ヒマリが作ったの?」

「うん。私のお気に入りなの。オリーブオイルとレモン汁、にんにくのすりおろし、塩、黒コショウを混ぜたものよ」

「へえ、おいしいね。さっぱりしててちょうどいい」

「ふふっ、ありがとう」


 ライトは食にこだわりがあるタイプのようで、私たちは食事をしながら、食材や料理の話に花を咲かせた。

 こういう話ができるのは嬉しいな。


「片付けはオレがやるから、そのままでいいよ。昼も片付けてくれたみたいだし」

「大丈夫、私がやるわ。ライト忙しそうだし、子どもにやらせるのも気が引けるし。それにやることなくて暇なの」

「えっ……? いやでも……。うーん、じゃあ任せるよ。――あ、そうだ。メモに書かれてたものは頼んでおいたから、部屋に届いたら不足がないか確認しておいて」

「ありがとう、助かるわ」


 ライトは私が「子ども」と言ったことに驚き、少しぽかんとしつつも、大人しく引き下がってくれた。

 なんで驚いたんだろう。どう考えても子どもじゃない?

 この世界ではライトくらいの年齢でも成人扱い、なんてことはないよね?

 魔神らしいし、普段そういう扱いをされることがないのかな……。


 片付けを済ませて自室へ戻ると、部屋に木箱が積んであった。

 箱には、「ヒマリ様用のお品です」と書かれている。

 開けてみると、メモに書いた品々がしっかり揃っていた。ありがたい!


「まだ寝るには早いし、今日中にできる範囲で片付けちゃおうっと。明日からは、いよいよ本格的にここでの暮らしが始まるのね……」


 この世界のことはまだ全然分からないし、召喚獣として召喚されたのはやっぱりどう考えても納得できないけど。

 でも間違いをいつまでも責めたって仕方がないし、状況は何も変わらない。

 あの子もあの子なりに私を尊重しようとしてくれてるんだから、私もここで楽しくやっていく努力をしなくちゃ!

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