第4話 チョコバナナフレンチトーストと疑惑
「それじゃあ――いただきまーす!」
「……え? 作ったのはヒマリだよね? ……ああ、うちの食材だから?」
「え? ああ、いただきますは食べるときの挨拶よ。食材や関わったすべての人に感謝の意を示すの」
「……食材に? なるほど、そういう挨拶だったんだね」
ライトは納得した様子で感心している。
そんなに興味を持たれるとは思ってなかったわ。
「ライトもやってみる? こうやって手を合わせて、感謝の気持ちで『いただきます』って言うの」
「……じ、じゃあ。……いただきます」
少し照れがあるのか、頬がやや紅潮して見える。
でも、恥ずかしがりながらもちゃんと手を合わせて、丁寧に感謝の気持ちを込めている。ちょっと可愛い。そして本当にいただきます!
甘い香りを漂わせるフレンチトーストにナイフを入れると、淡いプリン色のしっとりとした断面が姿を現す。
ふふっ、ちゃんと染みてる! 大成功!
私とライトは、切ったフレンチトーストをフォークで刺し、それぞれチョコソースをつけて口へと運んだ。
「――――! おいしいっ!」
「……! うん、おいしいね。上出来だよ。自分で料理できる人でよかった」
ライトは、なぜか心底ほっとした様子を見せた。
この子料理できそうなのに何でだろう?
あ、そうだ。今のうちに伝えておかなきゃ。
「あ、あのね、見た目はたしかにそうなんだけど、私は子どもじゃないのよ」
「え? どういうこと? 人間ってそういう種族だっけ……」
「いやいや違うけど! なんかここに来たときに、なぜか子どもの姿になっちゃって……。でも中身は大人なの」
「――ふーん? そうなんだ。まあどっちでもいいけど」
くっ――たしかに君にとってはどうでもいいかもしれないわね!
初対面なわけだし、今の体がこれなことに変わりはないんだし!
でも一応言っておかないとなんか騙してるみたいだし、すごく可愛げのない子どもみたいになるかなって思ったのよ!
――はあ、まったくもう。いいや。
そんなことより、今はフレンチトーストを楽しもう。
せっかくこんなにおいしく作れたんだしね。
ライトがかけてくれたチョコソースもいい塩梅で、甘めだけどくどくない絶妙なライン。
今食べたいのはまさにこれ! って感じの味に仕上がっていた。
「卵と砂糖とミルクの加減もちょうどいい。こっちではバナナを焼く習慣がなくて、こういうの初めて食べたよ。すごくいいね」
ライトは私の年齢には無関心で、フレンチトーストをじっと見つめて「ふーん」とか「なるほど」とかぼそぼそとつぶやいている。
発言が何かと大人びていて、子どもと話してるってことを忘れてしまいそうだわ。
本当に変わった子。これも魔神だからなのかな?
「あ、ありがとう。ライトも料理が好きなの?」
「うーん、まあ、自分のために作り始めてからは好きかな。昔のロード――主に命じられて、よく作ってたんだ。期待に沿えないと怒られるから、最初は自己防衛のために勉強し始めたってところかな」
「主? どこかに弟子入りでもしてたの? ――というか魔神にも主がいるの!? でもそっか、甘いものも好きみたいでよかった」
何気なく、本当に何気なくそう言っただけだったんだけど。
むしろ私としては、魔神に主がいることの方がよっぽど気になったんだけど。
「主は、自分が魔神一族だって気づく前のだよ。実は最近発覚したんだよね……。あと、オレべつに甘いものが好きなわけじゃないから! 糖分補給も大事なことだし、意識的に……」
ライトは謎の言い訳をしながら真っ赤になってあたふたし、ふいっとそっぽを向いてしまった。
情報が多すぎてツッコミが追いつかない!
でももしかしてこの子、甘いもの好きなの隠してる?
今どきそんな子いるんだ。しかも十歳で。
いや、まだ十歳だからこそ、その辺複雑なのかしら?
でも今、「あ」って言ったの聞こえちゃったもんね。
それに初の焼きバナナだったにも関わらず、ミルクチョコのソースを持ってきたこの直感とセンス。
これで甘いの好きじゃないなんて嘘でしょ。絶対甘党でしょ。
「そ、そう。じゃあ奇跡的においしく食べてくれてよかったわ」
「…………ん? あれ?」
「どうかしたの?」
そこまで話して、ライトは突然立ち上がり、不思議そうに自身の体をぺたぺたと触り始めた。
何か忘れ物でもしたのかな?
「き、傷が……消えてる……?」
「傷!? ――って、怪我してたの!? 大丈夫?」
「ああ、いや、大した傷じゃないんだけど。……そんなことよりヒマリ、フレンチトーストに何したの? オレの解析をかいくぐるなんて困るな……。人間は魔法が使えない種族だと思ってた……」
――え? は? 魔法???
ライトは急に深刻な顔をし、不安と焦りと不信感の入り混じったような顔で何やらぼそぼそとつぶやいている。
「え、私のこと? 魔法なんて使えないわよ。何言ってるの?」
「いやいや、回復魔法を仕込んだよね? これ何? 人間が使う特殊魔法なの?」
「???」
いったい何言ってるんだろう?
私、ただ料理をしただけなんだけど。回復魔法って何の話?
私があまりにぽかんとしていたためか、ライトはまじまじと私の顔を見て、「おかしいな」とつぶやき首を傾げた。
「……嘘を言ってるようには見えないけど、でもこれだけの魔法を扱える実力者ならそれくらいは……。ねえ、ヒマリは本当に偶然ここに召喚されたの? それとも、オレの召喚魔法に何かした?」
「あのねえ、そんなことできるわけないでしょ。いい加減にしてよ。私は普通の人間なの。回復魔法なんて使えないし、召喚魔法に何かすることなんてできないわよ」
訳の分からない疑惑をかけるのは本当にやめてほしい。
まったく。回復魔法なんて使えるなら、毎日自分にかけてたわ!
「…………そう。まあいいや。でも、変なマネしたら命はないから。忘れないでね」
「なっ――――!」
せっかくフレンチトーストを分けてあげたのに!
何なのよこの子!!!
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