第2話 始まってしまった異世界生活

「――まあそういうことになるかな。で、その使った召喚魔法がけっこう強力かつ厄介で……。端的に言うと、おまえを元の世界に帰すことができない」

「はあっ!?」

「でも安心して。これはオレのミスだし、ちゃんと衣食住の保証はするって約束する。部屋もたくさん余ってるから好きに使っていいよ」


 そういう問題じゃないでしょ!?


「――ど、どうにかならないの?」

「ならない。体が引き裂かれて死んでもいいなら、試すことはできるけど?」

「…………」


 というか、この子なんでこんなに落ち着いてるのよ!

 人を拉致しておいてどういうつもりなの?

 いくら子どもだからって、許されることと許されないことがあるでしょ。

 これ、本当に現実なの? それとも実は夢?

 しかも魔族の世界に転生なんて、いったい私が何したっていうのよ……。


「……悪かったとは思ってる。でも本当にどうしようもないんだよ。できるだけ不自由させないように考えるから。だからしばらく大人しくしててほしい。オレも、無駄に殺したくはないしね」

「殺――っ!? 子どもが軽々しくそんな物騒なこと言わないの! ――はあ。まったく。分かったわよ」

「分かってくれて助かるよ。じゃあ――ついてきて。オレのことはライトでいいよ」


 少年――ライトは、私についてくるよう言って部屋を出た。

 部屋の外には広く長い廊下が続いていて、いくつもの部屋が並んでいる。

 まるで貴族のお屋敷みたい……。


「ここ、ライトくんの家なの?」

「そうだよ。……その呼び方は慣れないから呼び捨てでいいや。そういえば、おまえ名前は? 聞いてなかったよね」

「そうだった。朝宮陽葵あさみやひまり。陽葵って呼んで」

「ヒマリ、ね。了解」


 二階へ上がり、廊下を進んで、奥の部屋へと通される。

 そこは、広くて手入れが行き届いた、豪華で美しい部屋だった。

 ベッド、椅子、机、ソファ、テーブル、棚、ドレッサーなど、必要な家具は一式揃っている。

 天蓋つきのベッドも、大人が3人は余裕で寝れそうなくらい大きい。


「この部屋でいい? 足りないものがあったら言って。用意する」

「こんな大きな部屋使っていいの?」

「いいよ、ほかの部屋も似たようなもんだし、部屋はほかにもたくさんあるから。お風呂とトイレは部屋についてる」


 ライトは一緒に部屋に入り、何がどこにあるのかを簡単に説明してくれた。

 十歳前後の子どもとは思えないくらいに手慣れている。


「わ、分かった。ありがとう……。でも勝手に決めて大丈夫? お母さんやお父さんは今いないの?」

「母親は、オレが小さいときに殺されたからいない。父親はいるけど、ここには滅多に来ないかな。この家の所有者はオレだから、親は関係ないよ」


 ――――え?

 いやちょっと情報量が!

 というか、今さらっとお母さん殺されたって……。


「――ご、ごめん」

「? 何、母親のこと? よくあることだよ」


 ライトは特にこちらを見ることもなく、無感情に淡々とそう話した。

 その反応に、自分はこの世界のことを何も知らないのだと思い出してぞっとする。


「よくあることって……。じゃあこの広いお屋敷に一人で住んでるってこと?」

「基本的にはね。忙しいときはサヴァントを連れてきたり、奴隷や使用人を雇ったりすることもあるけど」

「サヴァント? って誰?」

「ああ、ええと……まあざっくり言うと、配下にいる魔族のことだよ」


 配下にいる魔族!

 ――そ、そっか。ライト魔神だもんね……。


「キッチンは同じフロア内にもあるから、そこにあるもの好きに使って食べて」

「わ、分かった」

「じゃあオレ、これから用事があるんだ。――そうそう、必要なもの、今日中にまとめてリスト化しておいて。紙とペンはさっきの部屋にあると思う」


 ライトはそれだけ言って姿を消した。

 姿を、消した。


「――今の、転移魔法ってやつかな。……はあ。なんか疲れた。ってそういえば私の姿って今どうなってるんだろう?」


 私は部屋に置かれていたドレッサーへ向かい、鏡を見た。

 そこには、小学生低学年くらいの子どもに戻った自分が映っていた。

 Oh……。どう見ても子どもだわ……どうしてこんなことに……。


「――だめだ、いろいろ考えてたら頭が痛くなってきたわ。こんな状況、いくら考えても分かるわけないのに」

 

 私は考えるのを諦めて、ボフッとベッドへ倒れ込んだ。

 ベッドは硬すぎず柔らかすぎずの程よい弾力で私を包み込み、疲れた心身を癒してくれる。触り心地も抜群にいい。


「ああ、気持ちいい~っ。! やっぱりお高いベッドは違うわね!」


 起きた瞬間からいろんなことが起こりすぎて疲れたのか、布団に溶ける勢いで睡魔が襲ってきて、気づけば私は眠りについていた――。

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2024年11月30日 07:00
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