第一章 魔神の召喚獣ってどういうこと!?
第1話 ベッドにダイブしたはずが――!?
冷たい。それに、なんだか固い。
なんだろうこの違和感――。
たしか私、会社の飲み会から帰ってきて、ベッドにダイブしたはずなんだけど?
そんなことを考えながら目を開けると、目の前に見知らぬ子どもが立っていた。
「――――え?」
「――――は?」
セミロングの美しい髪を持ち、顔立ちの整ったその子の目は恐ろしいほど冷たく、しかしどこか焦った様子で――っていやいやいやいや! そうじゃなくて!
えっ? 何この状況? 夢???
冷たい地面から伝わるひんやりとした感覚、いつもと違う”よその匂い”、そして目に映る子ども、足元にある、紫色に輝く魔法陣……。
そのどれもが生々しくて、脳が混乱する。
心臓が、ドクドクと激しく脈打っているのが分かる。
「――――何、おまえ」
「そ、それはこっちのセリフなんですけど!?」
「…………」
目の前の子どもは、口元に手を当てて何やら考え込んでいる。
こんなわけが分からない状況、夢に決まってるのに。
なのになぜか、不思議なくらいに五感が現実だと訴えてくる。
声も少し高くなってるし、これ、私の体縮んでない!?
でも服は、私が着ていたスーツそのままなのになぜかフィットしてる……。
周囲を見回すと、そこは窓一つない、石の壁と石畳でできた部屋だった。
壁に灯りが灯されているため真っ暗ではないが、それでもだいぶ薄暗い。
――綺麗な子。男の子? いや、女の子かも。小学校高学年くらいかな?
そんなこと考えてる場合じゃないんだけど。
「――おまえ、いったい何?」
「ちょっと、さすがに失礼じゃない? そっちこそ誰なの? ここどこなのよ」
「…………失敗したってこと?」
え、待って。今この子すごい不穏なこと言わなかった?
「――オレの話してる言葉、理解できてる?」
「え、それはまあ、うん」
「変なこと聞くけど、おまえ魔獣――じゃないよな?」
「魔獣!? そんなわけないでしょ。馬鹿にしてるの? 私は人間よっ!」
突然目の前に現れたと思ったら、何なのこの子。
人を魔獣呼ばわりなんて、失礼にもほどがある。
というか魔獣って。
でもまだ子どもだし、そういうお年頃なのかも。はあ。
「――人間、か。くそっ。しかも子どもって嘘だろ……。さっき上で物音がして集中が途切れたから……」
「ねえ、さっきから何の話してるの? あなたこそ何? 私は子どもじゃ――」
「ごめん。とりあえずええと……どうしようかな……」
子どもに子ども扱いされてしまった。
美少年か美少女かも分からないその子は、私から視線を逸らし、必死で何かを考えている。そして。
「ここじゃ何だし、いったん出よう。それから説明するよ」
◇◇◇
次の瞬間、私とその子は、まったく別の部屋にいた。
レースのカーテンが閉まっていて外の様子はよく見えないけれど、カーテン越しに光が差し込んでいることを考えると、どうやら地下ではないらしい。
部屋には大きめの仕事机と椅子、それからソファとテーブル、壁際にはいくつもの本棚があり、本がぎっしり詰まっている。
異世界ファンタジー系でよく見る執務室のような部屋だ。
「――改めて、初めまして。オレは十三代目の魔神ブラック・ライト――って、人間に名乗っても意味が分からないだろうけど。でもとりあえず聞いて」
「え、あ、うん……」
――オレってことは、男の子なのかな。
さっきは暗くて分からなかったけど、水色の髪サラサラツヤツヤで綺麗……。
わけが分からな過ぎて、どうでもいいことに思考が逃げてしまう。
「隠しても仕方がないから正直に話すね。ここは魔族が暮らす世界だよ。で、オレは魔獣を召喚しようと思って召喚魔法を使ったんだけど、なぜかおまえが召喚されてしまった。つまり、おまえは別世界に来ちゃったってことだね」
魔神、魔族、召喚魔法、別世界……。
どこからつっこめばいいか分からない情報の多さに、眩暈がしそうだ。
これってつまり、つまりあれ?
「私、魔族が暮らす世界に異世界転移しちゃった……ってこと?」
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