魔神の召喚獣も悪くない! ~10歳の魔神に誤召喚されて帰れないけど、スキル【癒しの料理】で懐かれました?~

ぼっち猫@書籍発売中!

★プロローグ★

第0話 とある聖女選定と、とある魔獣召喚

 天界にある、神たちの仕事場「神殿」。

 その一室に三人の女神が集まり、「聖女選定」の話し合いをしていた。


「ねえ、この子はどう? 五歳のときに神獣のモフルンを助けてくれた子。この子なら聖女の素質が高いと思うの!」

「いいわね~。体の適性も耐性も問題ないし、どうかしら?」

「そうね、幼くしてモフルンに触れたからか、耐性も人並外れてあるわ。料理が好きみたいだし、料理に力を付与すればちょうどいいんじゃない?」


 聖女選定とは、本来力を持たない者の中から力を与えるに相応しい相手を探すこと。

 そうして様子を見て、自分たちの仲間として力を貸してくれそうな相手を選ぶも神の仕事の一つだ。


「――それじゃあ、この子にしましょう。諸々の手続きと力の付与は、エリスに任せちゃってもいいかしら?」

「もちろん!」


 この聖女選定会議は、数年に一度行われる。

 実際に力を付与する相手は、選ばれることもあれば選ばれないこともあるが、今回は一人の人間の女性に決まったらしい。


「さすがエリスね~。モフルンが見える子ならかなり期待が持てるわ」

「えへへ、ありがとうリール。最近はお仕事が大変で少し疲れているみたいだし、この子が力をいい方向に活用してくれると嬉しいな」

「全員一致の適性者だもの、きっといい聖女になるわ」

「そうね、楽しみだわ~。それじゃあエリス、最終確認と特典の付与、頼んだわよ」

「はーい! 任せて!」


 ◇◇◇


「――よし、こんなもんかな」


 全魔族の頂点に立つ魔神の一族、ブラック家の子息であるライトは、自宅の地下室で魔獣召喚魔法を発動させていた。

 魔獣とは、別世界に稀に存在する強い個体を器として召喚し、それに自らの魔力を分け与え強化することで完成する、召喚者のしもべのような存在だ。


「この絶対契約なら、数年から数十年は確実に拘束できるはず。こうして動かせる駒を増やして教育すれば、少しは――」


 こうした魔獣召喚魔法にはいくつか種類があるが、ライトが使っているのは、最高ランクの通称「絶対契約」と言われている魔法を基礎にしたもの。

 成功率はとても低いが、成功すれば「召喚獣」としての拘束力はとても強い。

 これをオリジナルでさらに強固なものへと昇華させ、先日ようやく完成させた召喚魔法で、ライトは「ある目的」のため自由に使える駒を増やそうとしていた。


「ええと……ここに血を垂らして」


 ライトは魔法具として売られている特殊なナイフで指先を切り、地面に描いた魔法陣に吸収させる。

 数滴たらされた血は魔法陣を巡り、紫色の光を発現させた。

 あとはここに魔力を送り込むだけ――だったのだが。


 ドンッ!


 上の階で何かが爆発したのを感知した。


「――!? くそ、あいつ料理もできないクセにまた勝手にっ!」


 恐らく、先ほどキッチンに忍び込んで食材を漁っていた不届き者が、魔力レンジを爆発させたのだろう。これで三度目だ。


「――っといけない。今はこっちに集中しなくちゃ」


 魔法は、手順通りに展開しても成功するとは限らない。

 安定した魔力の注入、集中力、周囲の環境などのすべてが影響してくる。

 ライトは苛立つ心を必死に抑え、再び目の前の召喚魔法に集中する。


 ――だが、この少しの心の揺らぎと中断がまずかったのかもしれない。

 もしくは、何か別のことが影響したか。


 この召喚魔法でライトは、思いもしないものを呼び寄せてしまった。

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