第7話 「 音 」

 音がする。家で私がいつものように妻を叱っていると、屋根裏から“ゴトッ”という音がする。

 最初の頃は大きなねずみでもいるのかと思った。何せ古い借家だ。主よりも長く住みついているねずみがいてもおかしくはない。それよりも私は、いつも私の指示に従わない妻のほうに腹が立って仕方がないのだ。

「大体、お前は」と声を荒げたところで今日は“ゴトッ”と大きく音がした。一瞬私は天井を見上げる。すると妻も上を見る。

「何だろうね」彼女は言う。私がそれに答えようとすると、彼女の顔には不思議と穏やかな笑みが漂っている。私はまた不意に腹が立ってくる。

「あのなぁ、そんなこと…」

「ごめんなさい」彼女は正座している。

「ん?」

「…だから、ごめんなさい」彼女は真っ直ぐ私の方を見てくる。

 それ以上、私は何も言えなくなってしまう。仕方がないのでまた天井を眺める破目になる。すると妻も同じように上を見る。

 天井の木目がわらっている。                      

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る