第5話 「 その形 」

 モノが売れない時代、私は何かに追われるように外回りをする。すでに何件か手痛く商談を断られた午後、急に空が暗くなり始め、雷が鳴り、雨が大粒で降り始める。

 私は通りの軒先を借りて雨宿りする。これで少しは時間がつぶせる。部長にも言い訳ができる。

 目の前の車道で奇妙な音がしたので見ると、誰かが投げ捨てたのか、空き缶が行き交う車に弾かれながら大雨のなか右往左往している。

 ペシャンコになるのは時間の問題だな。私はそう呟いた。だが空き缶は意外としぶとく、弾かれながらもその形を保っていた。

 私はだんだん居たたまれなくなってくる。もういい。一息に潰されてしまえ。そうすれば楽になれるんだ。

 その時、ひと際大きな雷鳴が辺りに轟いた。私は空き缶を見失った。降り続く雨の中、私は目を凝らした。もう見つかるはずがない。それに遅かれ早かれ非情な車の流れに踏み潰されてしまうんだ。

 私は不意に可笑しくなる。何、空き缶ひとつに感情移入してしまってるんだ。オレは行き場を失くした空き缶か?馬鹿馬鹿しさまでがこみ上げてくる。その時また、光とともに雷鳴が鳴った。

 ふと地面を見るとそこにあの空き缶が立っていた。それは大雨の中、傘を忘れた高校生のようにびしょ濡れでそこに立っていた。

 私はしばらく迷った。雨はますます勢いを増している。私は意を決して軒から出て缶を思い切り蹴った。また雷鳴が轟いた。

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