第6話 「後の祭りと挽回のペナルティー」
人間は緊急事態が発生したとき。その場を切り抜けるため、応急処置じみた行動をとるものだ。
最善の対処なんて、その場で咄嗟に思いついて、その場を切り抜けれる能力があるのなら、そもそも緊急事態に身を置くことがないだろう。
先生にカタチだけの説教を聞かされて、おそらく学園長の説教を食らうために、学園長室に向かわされている今ならわかる。
もっといい手があったはずなのに。結局は僕も怒りに身を任せて、あの馬鹿二人を暴力による制圧をしてしまった。
蔑んでおいて、結局僕もあの馬鹿と同類なのだ。
説教を食らうなんて人生で初めてのレベルだ。
「あぁ。これで僕も晴れて問題児かぁ」
噂というものは、真実がそのまま伝わる方が珍しいもの。
あちらが「下手すれば僕を入院させるレベルの先制攻撃」をしてきたとしても、「腕を打撲しているだけで立っている僕」という状況が噂に拍車をかけるだろう。
ましてや今の僕は学園1の美少女の彼氏だ。多少話を盛っても、噂や陰口な好きな高校生にはその話がすんなり通ってしまう。
今ある情報で月下さんをつけていた新聞部が噂を構成するなら……
『月下妃都美の彼氏。生徒会長と野球部のエースの2人と喧嘩になり半殺し?!』が見出しで、『現場には折れ曲がった金属バットがあり、その惨劇を物語っている。月下妃都美も脅されている可能性が?』から始まる文であることないこと書くに違いない。
それに現場には僕のクラスメイトが居た。けれど、この2か月間最低限の接触しかしていなかったせいで、僕の印象は「影が薄い盲目の人」から、「元ヤン?」になる気がする。
しかも関わらなかったのが、「今まで学校に行ってなかったから友達の作り方を知らない」って、解釈につながる。
あぁ、僕は疫病神にでも憑りつかれてるのか?
「というか、なんで君は自首したんだい? 黙っていれば怒られるのは僕だけで済んだだろうに」
あと、黙っていれば、僕が君を脅している説は薄くなっただろうに。
「元はと言えば、今回の一軒は紛れもなく私のせい。私と関わらなければ、あなたはこの事件に巻き込まれなかった。なら、私も罪を背負うのは当然でしょ?」
「なら、君は学園長に綺麗すぎることを怒られてくれ」
「それに!」
突然の大声に驚き、猫が背後にきゅうりを置かれた時くらい飛び跳ねてしまった。
「あなたの今までの行いは、親に心配をかけないため……。私を彼女なんかにしたせいで。この2か月。いや、今まですべての積み重ねが」
「承知の上だよ」
「へ?」
へぇ。驚いた時の月下さんはこんな声をするのか。
性格悪いけど、思わず口角が上がりかける。
「人間って残念なことに、力仕事以外は一人でやったほうが効率的なことがほとんどだろ? だから君を彼女にするときに多少の厄介ごとは覚悟してた。だから、君がそんなに気負う必要はないよ」
でも、正直想定していたよりも酷いかなぁ(本音)
「というか、僕の学園での評判事態は、僕が被害被るだけだから最悪いいんだ。問題なのは今回みたいな大事を通して、その評判とかが親の耳に通ること」
そのため僕が今からしなければいけないことは 、学園長の説教に対し猛省しているように見せて、どうにか親には報告しないでもらうこと。
目標の再確認が準備運動だった。とでも言うように、タイミングよく学園長室に辿り着いた。
ここでグダグダしても仕方ないので、すんなりと扉を右に引く。
「失礼します。神崎朧です。この度は大変お騒がせし、学園の風紀を乱してしまい申し訳ございませんでした」
60°ほど角度をつけて頭を下げる。服が隣で擦れる音がしている点から、月下さんも一緒に謝ってているようだ。
「おっひさー神崎クゥン。あ、月下チャンも来たんだ。ごめんねぇ。ワシが呼び出すとお説教だと思うよねぇ。大丈夫、大丈夫。今回の件は大体聞いたけど、君たちなぁんも悪くないから」
天才には変人が多いと聞く。
文豪の中には心中愛好家もいれば、薬物乱用大好き人間もいる。
数々の天才を排出する学園を管理する、いわば「人間の未来を見通せる天才」である彼も残念なことに変人だ。
「お説教しない代わりと言っちゃあれなんだけど、神崎クンにちょっとしたお願いがしたくてさぁ?」
話し方や、足音から嫌でもわかる落ち着きのなさとか、諸々が気になってしょうがないが、今回の件を見逃してくれるというなら喜んで媚びよう。
一応内容聞いとくか。
「お願いとは?」
「生徒会長やってみない?」
「なんで? あっ」
脳が入ってきた情報を拒否したのか、脊髄で話してしまった。
「うちの学園かなり特殊でさぁ。生徒会役員って任期が存在しないの。その役としての威厳を持ち、役割が果たせる限り続けられるけど、逆に言うと威厳がなくなったり、職務放棄するとクビってわけ」
「つまるところ今の生徒会長が本日をもって辞任させられて、その空いた席を埋めてほしいと」
「なんなら生徒会長がクビだから、ほかの役員もクビだねぇ。この学園、生徒会長が他の役員指名するから」
こんなノリでこの人が国とかを作らなくて本当に良かった。
この学園の「生徒会役員」という称号は、就職と進学。そのどちらもに想像をはるかに超える効力を発揮する。
中小企業程度ならもはや顔パスレベルだ。
そんな重要な役割を、こんな滅茶苦茶な方法で決めていたなんて。もはや言葉が出ない。
「……その威厳は何を基準になさっているのでしょうか?」
「この学園には、神崎クンみたいな勉強面の天才……厳密にいうとちょっと違うけど。月下チャンみたいな芸能面の天才。他にもいろんな天才が在籍してる。
だからなぁんでもいいのよ。暴力で統率を取って恐怖心煽って威厳を見せるもよし。徹底的に取り締まって風紀のいい学園を作り上げるもよし。とりあえず客観的に見て、あの人がこの学園の頭だと証明できればなんでもあり!」
ありとあらゆる天才がかき集められた学園。それがこの私立団栗学園。
あの前生徒会長みたいに勉学や、道徳面が絶望的でも、何かしらの天才であれば、この学園には入れるということか。
……ならどうやって偏差値70とかいう化け物学園になってんだ?
まぁこの際そんなことはどうでもいい。
様々な分野の天才がいる中で、「勉学」・「他生徒や教師からの信頼」だけで生徒の長を決めるのは確かに納得いかないな。
「ちなみに生徒会の仕事とは何でしょう?」
今後も学園の長があんな馬鹿になるくらいなら、面倒だけど僕がやったほうがマシだ。目立つけど…。
「雑務とか、部活動の予算配分とかを過去の功績をもとに決定したり、各行事ごとの準備とかかなぁ? 生徒会長に神崎クンがなれるなら、配慮して書類関係はできるだけ音で確認できる環境は用意するよぉ。まぁ君なら、激務に感じない程度さ」
「『なれるなら』ということは、何かしら試験があったり、選挙が開催されたりするのですか?」
「暇そうだし、月下チャンに聞くんだけどさぁ。この世の中で偉い人ってみんな共通点があると思うんだけど。ナニかわかるぅ?」
説教されると思ってついてきてくれたけど、結局月下さんに用はなかったもんな。
人に言われるレベルということは相当暇そうにしていたのだろう。
「『価値あるものを集める能力がある』かしら?」
「そうだねぇ。で、日本の場合は『価値あるもの』でみーんなが一番簡単に納得いくのがオ・カ・ネだ。だからうちの学園は、疑似的な通貨を用意して、それを一番集めた人が生徒会長になるゲームを開催する! すなわち団栗祭の始まりだよぉ~」
この学園のパンフレットを読んだときに、文化祭(団栗祭)が不定期開催(一年に一回以上)と書いてあって不思議に思ったが、こういうことだったのか。
一回以上固定なのは新入生が立候補できるようにする救済手段。残りでこの文化祭が開催したときは、革命の瞬間だったというわけか。
「あ、そういや神崎クンが思いついていないことを願うケド、君がわざと生徒会長にならなかった場合。純粋になれなかった場合。なった後に音を上げて職務放棄した場合。今回の件は親御さんに報告させてもらうからねぇ?」
「脅しを掛けるなんて。公務員としてどうなんです?」
「それくらいワシは君に会長になってほしいんだぁ。君は近年稀にみる怪物だからさぁ」
その言葉。誰かにかけなければいけないなら、姉さんの方が相応しいだろうに。
僕をおだてているつもりか。なら、「怪物」なんてフレーズは似合わないだろ。
「学園長!」
緊迫感ある声が右から聞こえる。なぜだろう。その声はどこか震えていた。
「どうしたの月下チャン?」
「今回の件。私がこの学園に在籍していたから起こった事件。だから、彼の親御さんに報告しない条件に、『私が生徒会長になった場合』も入れてくれないかしら? もちろん副会長に指名するのは彼よ」
「いいよぉ? でも、仕事しながら学業に、生徒会の仕事って大丈夫?」
「大丈夫よ。仕事はそんなに入れてないし、勉強なんてしなくても点は問題なくとれるから」
一応学び舎の長に向かって、勉強しなくてもいい宣言はいいのか?
「ふぅん。まぁ月下チャンがいいならいいか。団栗祭についての詳しい話は担任のセンセイが教えてくれると思うから、それ聞いて? じゃ、伝えたいことは伝えたし。帰っていいよ~」
「「失礼します」」
深々と頭を下げてから、月下さんとシンクロしたように回れ右をし、先ほど入ってきた扉を開ける。
「あ、そうそう。月下チャンと神崎クン。君たち付き合ったって本当?」
「本当よ。信じられないというならキスの一つでもしてあげましょうか?」
えっ?
「いやいや。別にそこまでしなくても確認したかっただけだからいいよぉ。末永くお幸せにねぇ」
隣で小さくうなずいた彼女は再び前を向き、学園長室から共に出て、教室へと向かった。
「すべチャンにこの話バレたら絶対面倒なことになるよねぇ。頑張って隠さないとねぇ。こまったこまった」
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