記録と予兆の話(不明・要確認)

 あー、じゃあ俺もちょっと思い出した話があるんだけど。本当にちょっとしたやつ。みんな色んな話知ってんなって聞いてて思い出したくらいなんだけど、どうかな。ごめんな吉宮、割り込みになっちゃって。


 本当大したことない話なんだけど、あれだ。久野先輩と同じでこの怪談会にまつわる話だからさ。じゃあこのタイミングで話すしかないなって思ってね。出しゃばっちゃった。

 この会さ、今はこうやって合宿でおまけみたいにやってるわけだけど。古めのOBさんの頃だと、もうちょっと規模大きめにやってたみたいなんだよね。この合宿所、元々小学校だろ? 今いるこの部屋は普通の教室だけど、体育館とかで人数入れてそれなりにやってたわけ。それぞれ一つ話を持ち寄って、それこそ雑談交じりに朝まで語り明かしてたわけ。その程度のノリの軽さだし、百物語とまではいかないけどね。


 そうやって、その程度の適当なやつでもね。人数がいっぱいいると話もいっぱい出てくるだろ? 話すやつがみんな素人でも、数撃つから当たったりするんだよね、がさ。


 その手のやつ、よく『これは話しちゃいけないって予感がした』とか『話すなって言われてる感覚があった』みたいに親切に教えてくれるのもあるけどさ。正直みんなそこまで勘がいいわけないじゃん。

 絶対いるんだよね、警告とか危機感とかそういうのが死んでるやつ。で、そういうとこから当たりが出る。フールプルーフ完備ってわけでもないから、怪談の方も。


 当たり方はいっぱいあったよ。普通に変なことが起きるやつから、実害がそこそこ出るのまでね。その話を聞いたやつが全員三日以内にオレンジのスキーウェアのデカい人間を見たとか、原因不明の体調不良で熱出して魘されるとか、あー……退学したやつはどうだろ。普通にそういうやつはいるから、そこ怪談のせいにするのは冤罪になりそう。いたかもしんないけど、保留ね。

 ま、そういうアグレッシブな当たり以外にも色々種類があるってこと。そのひとつに、記録されない話ってのがあったんだ。


 やっぱさ、こうやって話すんなら記録しておきたいのが人の常じゃん。ことにこれ、合宿の思い出ってものなわけだからさ。輝かしき青春の思い出? みたいなやつで需要がある。そういうわけで、この怪談会を録音とか撮影とかしてた時期もあるんだよね。撮った映像編集とかして、それこそ追いコンとか忘年会で流したりしてさ。

 そこまで活用してたのにやめた理由が何だったら、不具合が出たから


 不具合もね、シンプル。どうしても記録されない話が出てきたんだって。しかも一話だけじゃなくて、幾つも。


 写真に写らない、動画に映らない、ってのが一つ。写んないやつはあれよ、モヤみたいにボケてたり、本当にぽかっと空間が開いてたり。動画も同じだってさ。あとは前後の音声も映像も問題なく入るのに、特定の箇所だけ切り取ったみたいにぶつっと飛ぶ。編集済み、っていうか検閲済みみたいな感じでね。

 それから、声の方。特定のやつだけ声が録音されないとか、録れててもどうしてか文章が支離滅裂になってるとか、そういうことがあった。声が通らないんじゃないかって、明らかにそいつと誰かが会話してるところでそいつの台詞だけ加工したみたいに消えてるのは、声の質とかの問題じゃないだろ。相槌も間も、どう聞いても相手がいるとしか思えない調子だったりしたんだから。掻き消すみたいに警報機の音が入ってたこともあったって。駅遠いし、そもそも終電なんか八時で終わりなのにね、ここ。

 で、そういうのがあったんで……怖がるやつも増えてきてね。普通の内容ならともかく、話してるのが怪談だからさ。何となく不吉な感じがするだろ、まだ祟りって程じゃないけど、その前触れみたいな。


 だから、前兆のところで踏み止まった。

 規模も縮小して、記録なんかもやめるようになった。対処としてはシンプルだよな。記録すると怖いことが起きるんなら、記録しなければいい。ヤバい話は……まあ、数を減らせば確率は減るよねって話。すっぱり止めれば良かったのかもしれないけど、その辺の理由は知らない。そもそもないかもしれないしね。集まれる口実、イベントを減らしたくないくらいがありそうなとこだと俺は思ってるけど、ね。


 そういう前提つうか歴史? があるから、今回の録音ってのは本当に英断なわけよ。そんで文章にもするってんだから、俺としてはとても楽しみ。好きだからさ、人が集まってわいわいしてんの。勿論怪談もね。


 この音声も残んなかったら面白いね。……いやいや、大丈夫。昔の話なんだからさ。もうほとぼりも冷めたろうし、ちゃんと残してもらえるって。なあ能井。面白いこと好きだもんな、お前もさ。企画者だもんな。むしろここでちゃんとした形式のを復活させて残すってのも面白いだろ。

 引き継がれる伝統とか、因縁とかね。俺はそういうの大好き。物理的に形のないものなら尚更。それこそ記録してなんぼってところ、あるからね。聞いたやつと見たやつに関わったやつも、みんなして忘れられなくなったら最高でしょう、話した側としてはさ。

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