日本最大の富豪の家に生まれた金沼総国は、親の後ろ盾を利用してひそかに地下闘技場『強敵乃会』(とものかい)を運営している高校生。そんな『強敵乃会』にある日一人の人物が乱入する。猿のお面を被った小柄な乱入者は、地下王者をあっさりノックアウトするとすぐさま逃亡。突然の事態に困惑する総国だが、その翌日に犯人はあっさり判明する。乱入者の正体は同じクラスの女子、猿飛愛子だったのだ!
迫力のある格闘描写に加えて、次々登場する地下闘技場ならではの怪しい強敵たちと、格闘小説としての大事なポイントが押さえられている本作だが、それに加えて青春ラブコメとしても面白いのが最大の特徴!
突然乱入してきた愛子を再び『強敵乃会』に出場させたい総国だが、ろくに友達もいなければ女子と話したこともない総国にとって愛子に話しかけるのは地下闘技場の運営以上に過酷な試練! こんな感じで何の接点もなかった二人が地下闘技場という非日常な空間を通じて、少しずつ距離を縮めていく過程が実にいい。二人の脇を固めるサブキャラも、総国の地下闘技場を乗っ取ろうとする性格最悪の姉や、総国に忠実なようですぐに裏切る執事などやたらと濃い人物ばかりでラブコメとしての面白さに華を添えている。
また「ただの女子高生である愛子がなぜこんなに強いのか?」という謎がストーリーの一つの軸となっており、これにちゃんとした回答が用意されているのも嬉しい。
(「拳で道を切り開く! 特殊格闘技小説!」4選/文=柿崎憲)
漫画などでもよく見かける「闘技場で行われるバトル」タイプのお話……しかしその内容はしっかり練られた濃厚なもの!
格闘技なんて見たことない! という人にも分かりやすい情景描写。漫画じゃないのに殴り合い、組み合う姿がありありと目に浮かびます。
そして「まあ、勝つよね」という勝敗予想を「勝ち方」で上回ってくる構成力。バトルものではいわゆる主人公補正で展開が読めがちですが、本作は『猿』が『どう勝つのか』にも魅力がグッと詰まっています。
そしてアツい試合展開! 観客の1人になったかのように格闘場内に起こる興奮を追体験できる楽しさがすばらしい作品です!