第44話 告白
俺の『告白』のせいで、ただでさえ静かな地下がさらに静まった。
沈黙に沈黙が重なって行く。
「な、な、なにそれ? いきなりなによ? なに言ってんの??」
突然の告白に恋子は不愉快そうな声を上げたが、声色に嫌悪感はなかった。
どちらかと言うと驚いたというか、困惑している感じだ。
だが、俺は構わなかった。
「誰かに対してこんな感情を抱いたことがないからわからないが、俺はきっとお前が好きなんだ。だから、お前に万が一の事があったらと思うと……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
恋子は右手で俺を制する様な仕草をして、一拍置いて続けた。
「なんでいきなり告白? ていうか今する? 空気ガン無視だよね?」
「すまん。だが自然と言葉が出てきた」
「……勝手だよ、総国くんは。ホント自分勝手」
「申し訳無い」
「……謝んないでよ」
再び訪れた沈黙。だがそれは恋子が吐いた小さな溜め息と共に吹き飛んで行った。
「……わかってるよ。総国くんが小うるさく言うのはあたし達を心配してくれてるからだって、わかってる。もともと総国くんはあたし達を巻き込みたくないって思ってたのもわかってる。そもそもあたし達が自分から有仁子さんの話に乗ったから始まった事だもんね。だから……わかってるに決まってんじゃん!」
恋子は捲し立て終わると突然、俺に抱きついてきた。
「っ!?」
いきなり過ぎて驚いたが、不思議と慌てたりふしだらな感情が沸いて来たりはしなかった。
ただ、恋子の華奢な腕と体が心地よかった。
「あたしも好きだよ、総国くん。でも、それは愛子に直接言ってあげて」
「……え?」
「お願いね」
恋子は俺の胸を強く押すと同時にバックステップ。
押された俺は背後の梯子にぶつかり、恋子は反対にトンネル内へと戻った。
そして彼女が壁面からぶら下がっていた鎖を引くと、俺と恋子のちょうど中間あたりの頭上からがらがらと音を立てて『鉄格子』が降りてきた。
ガッシャン!!
と、大きな音を立てていかにも重そうな鉄格子は俺と恋子を完全に隔ててしまったのだった。
……いやいや、なんだこの凝った仕掛けは?!
「ちょ、おい恋子!」
俺から見ると、恋子は地下牢に閉じ込められている様な格好だ。
恋子は鉄格子の向こう側からにっこり微笑み、鉄格子にしがみつく俺にゆっくりと近づいた。
「……助けてよ、
「な、なんだって? どういう事だ?」
「総国くんならきっと出来る。信じてる」
「わかるように言ってくれ!」
「これはお礼の前払いね」
恋子は自分の人差し指に口づけ、その指先で俺の唇に触れた。
「???」
か、間接キスというやつか?
でもなんで今そんなというか、なんでそんな事を今??
俺がパニックに陥っているのが可笑しかったのか、恋子は楽しそうに笑うといたずらっぽく言った。
「残念だけど、今のあたしにはこれが精一杯。勝手なことしたら、後で愛子に怒られちゃうからね」
けらけらと笑いながら、恋子は俺に背を向けてトンネルの奥へと歩き始めた。
その足取りは軽やかで、およそ死地へと赴く者のそれとは思えない。
「恋子!」
止めたところでもう止まるまい。
だから俺は恋子にも、猿飛にも届くように言った。
「……勝てよ!」
毎度の事だがもっと気の利いた事が言えないのかと、自分にうんざりする。
だが恋子はくるりと振り向くと、
「ありがとっ」
と言って手を振ってくれた。
恋子はすぐに暗闇へと溶け、見えなくなった。
俺はそれを見届け、梯子をゆっくりと上った。
俺は、猿飛も恋子も好きなんだろう。
危なっかしくてほっとけないからか?
それとも可愛らしい容姿だからか?
料理上手だからか?
家庭的で大人しい性格だからか?
恋子に下心を抱いているからか?
……わからない。
あれが告白とかいうものなのかもわからない。
俺は単に自分の気持ちを素直に言葉にしただけだ。
それを告白と言うのならそうなのだろう。
もっと小恥ずかしいものなのかと思っていたが、そんなことはなかった。
なんというか、清々しさを感じるものだった。
不思議だ。自分にこんな心があったとは。誰かを好きだと感じられる心があったとは。
梯子は総国公園の正面に位置するマンホールへと繋がっていた。
外へ出ると辺りがやけに明るくて、暗闇に慣れた目にはその明るさは痛みすら感じた。
(……工事車両? あの明かりは工事現場用の照明か)
なるほどな。有仁子は工事を装って総国公園とその周辺を意図的に閉鎖したのだ。
猿飛の家は公園と隣接していて隣家とも離れているから工事中を装えば公園ごと猿飛家を隔離できる。
フラッシュバンを使おうがサブマシンガンを乱射しようが誤魔化し様はいくらでもあるだろう。
(どこまでやる気だ、あの馬鹿姉は!)
俺が深い溜め息をついていると、どこらかともなく工事現場の作業員に扮した金沼家の警備員が数人駆け寄って来た。その手には工具に模した銃器が握られていた。
面倒な事になるのは御免なので俺は言われる前に両手を挙げ、無抵抗の意思表示をした。
その様子に警備員は一寸訝しんだが、すぐに俺が誰かを理解して銃を仕舞い、頭を下げた。
しかし、今はそんな事などどうでもいい。
俺は一刻も早く行かねばならないところがあるのだから。
俺は警備員達に声を張った。
「今すぐ強敵之会会場へ……有仁子のところへ案内しろ!!」
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