示された二つの違う道(24日目:センタク)

 暖炉の火が暖かい宿で、一行は黙々と酒を飲んでいた。口を開く者は、誰も無い。

 ランフォードにワインを飲ませて貰いながら、コンラートは考え込んでいた。――ドッペルゲンガーとの二度目の遭遇が、気にかかって。

 あれは、何の意味があるのだろうか? 自分はこれから、どうなるのだろうか――否応なく現実が、突きつけられる。

 ランフォードとジェフも、何事かを考え込んでいるようで、全く口をきかない。口数の多い方である一行が、これほどにも静まり返ったのは、初めてだという気がした。

 酒瓶を皆で何本か空にした頃、ランフォードが姿勢を正して、コンラートの頭を撫でた。

「……私は、この辺りの伝承や現象には詳しくない。コンラート君。さっき見たあれは――力では何とも出来ないのかね?」

「力、とは?」

 コンラートがランフォードの方に視線を向けると、ランフォードは少しだけ悲しそうに笑った。

「君はその目で見ただろう。私の魔族としての力が一番得意とするのは、破壊だよ。――もしも、あれを破壊すれば君の憂いがなくなると言うのなら……私は、躊躇しないよ。あれを出している相手がいるのなら、私が地の果てまでも追い詰めて倒しても、構わない」

「ランフォード……」

「――そういうことも少し、検討してくれないかね。君を守るための方法としてね」

 もう少し、酒を買い足してくるよ。小さく呟くと、ランフォードはコンラートをテーブルの上にそっと置いて、部屋を出ていった。

 炎がぱちぱちと爆ぜる音だけが、静まり返った部屋に響き渡る。テーブルの上からは、コンラートには背を向け、炎を見つめて座っているジェフの表情は窺い知れない。

 ぱちんと、ひときわ大きな音を立てて薪が崩れたときだった。

「――ランが、あそこまで言うとはなあ」

 ジェフが、ゆっくりと立ち上がってコンラートの方に向き直った。そのシトリンの瞳は、珍しく迷っているようだった。何かを言おうとしては、口を閉ざすこと数回。

「――俺様はランとは別のことを考えていた。……首だけ騎士。この地を離れる覚悟はあるか?」

「この地を、離れる? ――そうして俺は、どこに行くんだ?」

「魔界だ。――もっとはっきり言うと、俺様の領域だな。ランでもお前を住ませるのは異存無いだろうが、あそこだと常に狙われるだろうからな。……その点、俺様の領域は安全だ。首だけのお前が来たところで、俺様の部族ならただの変わり者で通る。お前の世話をする者もつけられるだろう。――恐らく魔界までは、ドッペルゲンガーは出ないだろう。お前を狙って何かを仕掛けてる奴がいたとして、俺様の領域では手出しも出来まい……」

 まあ、こういう手もあるって、頭の片隅にでも置いておけ。それだけ言うと、ジェフは再びコンラートに背を向けて座った。

 ランフォードとジェフ。――二人の示した、全く異なる、選択。コンラートの考えもしなかった、これから。

 俺は――どちらの手を取る?

 それとも、他に何か選べる道が――?

 赤々と燃える炎が、部屋を照らす。

 ――今夜はなかなか、眠れそうになかった。

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