第11話魔導士皇帝は召喚する
「ん? つーことは」
アッシュは嫌そうに顔をしかめ、
「その子供たちに若い女性ってのは、まさか出稼ぎにいかせてんじゃないっすよね?」
「いえ、違います! ですが……」
村長は覚悟を決めたようにぐっと喉を上下させ、
「前皇帝陛下にも、皇宮まで減額の嘆願に赴いたことがあるのです。ですが……当然ながら、受け入れられず。どころかもし小作料が足りなければ、若い女と子供たちを献上させるぞと脅されたのです。子供も若い女も、高く売れるからと。……気に入った者は、自分に侍らせてやるとも」
(ああ、やっぱり)
ラシートは暴君の名に相応しいほど気性が荒く、下劣だった。
その前の"皇帝"も、ラシートほどではないにしろ似たようなもの。
今回、"皇帝"が立ち寄るとの知らせを受け、子供と若い女性が奪われないよう隠したのだろう。
そして、強硬策にうってでた。
(どのみち、小作料が収められないとなれば、なにかしらの"罰"が下るものね)
リアンレイヴも理解したのだろう。
ぐるりと室内を見渡した後、「そうでしたか」と息をつき、
「子供も若い女性も必要ありません。売るような趣味はありませんし、心に決めた方がいるので、それ以外は煩わしいだけです」
「へえー、前皇帝ってやっぱりドクズだったんすねえ」
「エベリナ様! エベリナ様はご無事でしたの? 下衆な男が主人だったなど、なんとお可哀想に……!」
よよよ、と涙を浮かべるマーティの横で、さっとリアンレイヴの表情が抜けおちた。
それまでとは異なる威圧感に、つい「リ、リアンレイヴ?」と戸惑いを口にすると、
「まさかあの男、エベリナ様にまで不埒な真似を……? 残った骨も粉砕してきます」
「私はただ戦闘に使われていただけよ! そもそも、私に触れることは出来ないのだから、不埒な真似もなにもないわ」
途端、リアンレイヴがぴくりと肩を揺らすも、何か言いたげな目をして口を開閉させた。
「…………そうですか」
「なによ。なんなのそのたっぷりの間は」
アッシュがやれやれと言わんばかりに首を振る。
「やっだなあ、エベリナ様。別に触れなくたって、方法はいくらでも――」
「まあ、やかましいお口はこのお口かしら? さ、アッシュ。食べ物に罪はないですわ。残されたら可哀想よ」
「ふぉが!? むむんふふぉひは!」
(だからその料理、魔力封じの毒が入ってるのよね……?)
マーティにせっせと料理を詰め込まれているアッシュを、助けるべきか否か。
悩んでいる間に剣呑な雰囲気を収めたリアンレイヴが、村長に向き直る。
「子供と女性達が隠されているのは、安全な場所ですか?」
「それは……」
口ごもった村長におや、と周囲の男たちを伺う。
すると、誰も彼も陰鬱な表情で視線を彷徨わせ、中には泣き出す者も。
村長はやっとのことで重々しい口を開き、
「歩いて数時間ほどかかる森の中に隠しております。火は絶えずおこしておくよう言いつけ、明日の昼までに迎えがいかなければ、村を捨て別の村へ向かうようにと」
「は? 女子供だけで、森の奥に放置してんすか!?」
「愚策すぎますわ。いくら火を起こしていても、それだけで獣が避けるわけではありませんのよ? これでは"皇帝"の手を逃れたとて、どうなるか……」
アッシュとマーティの言葉に、村長までもが「つらい選択でした」と涙を落とす。
「ですが他に手立てがなかったのです……!」
「ともかく、一刻も早く彼らを連れ戻すべきですね。小作料については、その後に話をしましょう。……アッシュ」
リアンレイヴの呼びかけに、アッシュは「へーい」と軽く返事して、机にとんと手を乗せた。
「ありし時に戻れ。――"解術"」
刹那、男たちを拘束していた枝葉が動き出した。
かと思うとそれらは壁や机、床などにしゅるしゅると吸収されていき、茂みのようだった部屋の中は元の通りに。
呆然としている男たちに、リアンレイヴが、
「皆さんに、急ぎ用意してほしいものがあります。村長、ご協力いだたけますね」
「あ……わ、我々は、何をしたら」
「森で待つ子供や女性たちが使っていたものを、急ぎ集めてください。服でも皿でも、なんでも構いません」
「それは、構いませんが……いったい、何を」
リアンレイヴはにっと口角を上げ、
「それらを媒体に、彼らを村に召喚します。一人につき一つ。抜けのないようにしてください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます