第8話(終)

 起きた。


 脱がされては。


 いない。無事。


「いま何時?」


『時報かよ』


 いい声。男か女かは分からない。


『夕方6時。6時間ほどの睡眠です。レム睡眠ノンレム睡眠ともに正常値、いびき、寝言もなし。左手から左肩にかけて寝違えの筋肉のこわばりを検知。2分後ぐらいにびきびきが来る可能性大』


「ご丁寧にどうも」


 左肩から。左手。


「あ、そうか。手を」


 女。よほど安心したのか、眠っている。


『お前が寝たのを確認してから、わんわん泣いてたぞ。静かにだけど』


「そりゃあ、忘れられる人生とおさらばできたわけだし、嬉しかろうよ」


 女の顔。たしかに、目もとがかさかさしている。よほど泣いていたらしい。


『不憫だと思うなら、付き合ってやるんだな』


「どいつもこいつも同じことを言いよる」


 まぁ、仕方ないか。


「あっ来た。びきびきが来た。やっぱ寝違えてた。通信終わりますオーバー」


 通信が切れる。


 と。


 同時に。


 女も起きる。


「あっおはようっ。おはようおはようおはよう」


「手を振るなっ。手をっ。寝違えてるでしょうがぁっ」

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リアクテイル(短文詩作) 春嵐 @aiot3110

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