episode3.3




         ◎◎◎













 事件終息から一ヶ月が経とうとしていた、適度に雲がかかった初夏の晴れの日——。ルミナ達は、集落を後にしようとしていた。


そのことを聞きつけた集落の人々は、総出でルミナ達を見送ろうとしていた。




そして、別れの時——。




「お世話になりました」


「お世話になったのはこちらの方だ。……もっとゆっくりしていっても構いませんぞ」


「……嬉しいですが、私達も、そろそろ行かなければならないので」


「……そうですか。是非、またうちの集落に立ち寄った時は、全力で歓迎させてください」


「ありがとうございます」


「ルミナー!こっちの準備は終わったよ。……クラウドさん、いつまでも拗ねないでよ……」


「フン!言われるまでもないさ!……せっかくアタシが武器作ってやるってのに……」


「子供に武器持たせちゃ駄目だよそりゃ……」


「あーはいはい!アンタもガキだよ!」


「全く懲りない人だなぁ~……ルミナ、もう行ける?」


「はい、大丈夫です。……では行きます。今までありがとうございました」




 ルミナに向けて、声が飛び交う。




「またな嬢ちゃん!アンタのお陰で仕事が捗ったよ~!またいつでも来な!」


「ルミナちゃん!バイバイ~!遊んでくれてありがとー!」




 止めどなく溢れる感謝の言葉に、ただ頭を下げて答え、背にする。


段々と遠くなっていく声に、ルミナは少し、寂しさを感じていた。しかし、歩くのは止めない。振り返ることも、しない——。




「……良い集落だったね、ルミナ」


「……はい」


「ケッ!アタシの提案を蔑ろにする集落の何処が良いんだか——」


「もう拗ねないでよ~。いい歳して」


「歳なんか関係あるもんか!全く……」


「はぁ~、クラウドも懲りないなぁ——って、ルミナ、どうしたの?」


「?なんでしょう?」






「なんで泣いてるの?」






 その言葉に、ルミナは平然と答えていたが、体の奥底からやって来る知らない感情に、突如襲われる。




「なんで、でしょう……目の辺りがっ……熱く、なってっ……これはっ、なん、でしょうっ……」


「それは涙だよ。……嬉しい時、悲しい時、寂しい時に、止めどなく溢れちゃう気持ちが、こうやって物質に変わって出てきちゃうものだよ」




 溢れだした涙は止めどなく、ルミナの頬を伝って落ち続ける。




「これがっ……なみ、だ……」


「……アンドロイドにも、涙ってのはあるんだねぇ……」




 ルミナは泣き続ける。それでも、歩き続ける。他の二人も、止まることはない。




「ハァハァ……!おーい!……ハァ……ちょっと、待ってくれ!」




 そこに、ある男が走って登場した——。




「ん?どっかで見た顔だね」


「あれ、おじさん!どうしたの?」


「……っ、クレ、ス?」


「ハァハァ……やっと追いついた……!——って、なんで泣いてんだ?」


「っ!……見ないで、ください……!」


「おじさん、どうしたの?……ははーんさては、ルミ——んぐっ!!」


「タウリーお前は黙ってろ!……その、ええっと……」




 そこに、落ち着いたルミナが登場した。




「どう、したんですか?」


「い、いやっ……その!……えっと……」




 言葉に詰まるクレス。しばしの沈黙の後、三人が予想もしなかった言葉が出る。




「お、俺も……俺も!旅に連れていってくれないか!?」


「なんだいアンタ。おかしな奴だね」


「それ、クラウドが言う……?」


「お黙りガキんちょ!……アンタには集落があるじゃないか?何が目的だい?」


「俺には……集落はあっても、帰る場所がないんだ。……それに……」


「それに~?」


「っ!茶化すなタウリー!……それに、俺はアンタらに興味が湧いた。理由なんて、それで十分だろ……」


「クレス……」


「……フン!アタシゃ気に食わないけど、勝手にしな。……アタシはアタシのやりたいことさえ出来りゃ、誰が来たって構わないからね」


「!じゃあ!」


「行くよ、おじさん!あんまりトボトボ歩いてると、僕とルミナは置いてっちゃうからね!」




 クラウドとタウリーがクレスに背を向け歩き出す。


立ち止まったクレスに、ルミナが手を差し伸べる。




「行きましょう、クレス」


「……あぁ!勿論だ!」




 二人を追いかけるように、二人、歩き出す。それぞれの目的、目標を果たすために——。













——ルミナ達がレグリウスの集落を出る、ほんの少し前。タウリーの育った小さき集落、"ウェヌス"にて——















 のどかな集落であるウェヌスでは、集落の中でもさらに人の少ない場所であった。少人数だが人当たりも良く、他人を排除しない、優しくて、落ち着いた集落——であったはず、だったのだ。




「老人はこちらに並べ!若い女はこっちだ!その横に子供を並ばせろ!男もその横だ!」


「オメェら逆らおうなんてこたぁ考えるなよ?命が炭になるなんて御免だろ?」




 ウェヌスの集落は、アンドロイド達によって占拠されていた。




「ねぇサダル。これからアタシ達は何をするの?拘束ごっこなんて、欠伸が出ちゃうわ」


「勿論、これで終わりなわけないよね?サダル」


「ルーノ、テレス、そんなに慌てなくても大丈夫だ。もう私達を縛っている者など誰一人として生きているわけじゃないんだ。ゆっくり、やっていこうじゃないか」


「サダル、集落全員の整列終わったぜ。後は模倣品に任せて大丈夫だよな?」


「ああ、ありがとうアルデス。人間にあの力……どうすることも出来はしないさ。最も、クラウドのような人間以外は……だがな」


「前に話していた、"箱"と一緒にいる技術者の老婆、だったか?お前がそこまで気にするような相手なのか?」


「クラウドはただの老婆ではない。アイツは恐らく、前時代の兵器や技術を長年研究している。ましてや、"あの技術"がヤツの手に渡ったら……私達もタダでは済まなくなるだろう」


「ははっ、そんなこと、あるわけないじゃない。あの技術は私達で葬ったはずでしょう、違う?」


「ああ。しかしもし、データが文献として残っていたら……」


「ありえない。僕がこの手で消した」


「だってよ、サダル。とりあえずここを拠点にとっとと制圧しちまおうぜ」


「……分かっている。そしてルミナを捕獲し、ニュイ・エトワレを実行する。みんな、期待しているよ」


「へっ、お前に言われなくてもな!」


「アタシ達なら、手こずる未来が見えないわ」


「……余裕」




 アンドロイド、METSIS達の計画が、動き出す——。

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