episode2.8
アンドロイドの襲撃、そしてサダルとの戦闘から数日——ルミナ達は歩き続け、ようやく北の集落"レグリウス"へと着いた。
あの襲撃、戦闘によってクラウドが持っていた超次元収納庫が壊れてしまったため、三人と一匹がタウリーのテントいっぱいに入って夜を越すということをしていた。
そうしてようやく着いた集落には、文字通り暗い暗い雲が分厚く、重くのしかかっていた。
「ようやく着いたけど……こりゃ、早いうちに宿を見つけた方が良いね。雨が降ってきちまう。でもその前に、ここの長に挨拶しなきゃね」
「え?挨拶なんているの?」
「当たり前じゃないか。いきなり余所者が集落を闊歩するなんてのは——……アンタらまさか、シリウスの長に挨拶してないんじゃないだろうね?」
「うっ……」
「何かあるのですか?」
「問題ありまくりさね!よそ様の集落に入る時はその集落の長に挨拶っ!……憶えておくんだね」
「はーい」
「憶えておきます」
「さ、長の家に行くとするかね。アタシゃ一回来たことあるから、アンタら着いてきな」
クラウドを先頭に、タウリーとルミナそしてホープがとことこと着いていく。
レグリウス人々はその他所から来た者達を一瞬見るが、すぐに目を逸らし側に居た人とひそひそと話す。
その異様な雰囲気を、クラウドは感じ取る。特に気にしていなかったタウリーとルミナに耳打ちをした。
「……なんだか、集落の様子が変だ。気をつけて歩きな」
「えっ……なんでさ?」
「……前来た時はこんな奴らじゃなかった。他所から人が来ることは珍しいんだろうね。引っ切り無しに質問攻めにあって、そりゃあ骨が折れたよ。だけど、今はこうして遠くから眺めてるだけで誰一人寄ってこようとしない。……とっとと長の家へ行っちまおう」
「分かりました」
三人と一匹は周りを気にすることなく進んでいく。ひりついた空気の中、雨がぽつぽつと降り始めた。
しばらく集落の奥へと歩いていくと、クラウドの案内通り長の家へと着いた。
クラウドが扉をノックする。
「何者だ!」
明らかな猜疑心を露わにした声が建物の中から聴こえてきた。長に同行する護衛の任を仰せつかった者達である。
「アタシらは旅の者だ。長へ挨拶に来た。中に入れてくれんか?」
「…………そこで待っていろ」
クラウドが呟く。
「……やっぱり、なんかあったみたいだね。この集落」
「何かって何さ?」
「お黙り。ガキは詮索しなくて良いよ。下手な詮索は行動に出るもんだ。あくまでも自然でいな」
「はーい」
「……」
しばらくして、家の扉が開く。しかし、開くと同時に三人それぞれにナイフが突きつけられた。
「なっ!?アタシらはただの旅の者だよ!何するのさ!」
「クラウドさん……これ、マズいんじゃ」
「っ……!」
ナイフを突きつけた三人の内の一人が話す。
「このまま長の元へと行け。嫌ならこの集落から出ていってもらうまでだ」
「……行くよ、タウリー、ルミナ」
「「はい」」
そのまま長の元へと歩いていく。ただの平屋だと思われた家には地下室があるようで、薄気味悪く光る電球に照らされながら下っていく。
♒︎
「随分気の早い話だと思うが、これからルミナ——"ニュイ・エトワレの箱"捕獲作戦にあたる準備を説明する。質問があったら言ってくれ」
ルミナとの戦闘から数日。各自のメンテナンス終了後に集め、ルミナを捕獲するための作戦会議を開いていた。
「はいはーい」
「ん、どうしたアルデス」
アルデスが早々に挙手する。
「博士の夢を叶えるってのは賛成だぜ。だけど……それだけで本当に終われるのか?」
「へぇ~……」
「……」
「……何が言いたいんだ。ハッキリ言ってくれないと分からないぞ、私は」
一息つき、アルデスが答える。
「アタシらは散々人間にこき使われて戦場に居た。ま、アタシは闘いが好きだから良いんだけどよ……アタシも含めて、アイツらにやられたこと、忘れてねぇよな?」
「「「…………」」」
空気が異常にヒリつくのを感じる。
「だよな。忘れてねぇよな。忘れられる訳がねぇ……!!そこで提案なんだが、計画の前にすこーし、復讐でもしようぜ」
「……フフッ、良いじゃない。アンタにしては面白いことを言うわね」
「うん。その案、乗った」
「……特に意味を感じないが……フフッ、フフフフフ——良いだろう。その案を採用しよう」
「……ヘヘッ。やったぜ……!」
「ではそれと併用しながらルミナ探索と行こうか。こちらからでは逆探知もかけられないしな。いいか、まず私の模倣アンドロイド数十体が探索した結果の地図がこれだ。で、まずこの集落から——」
……人類ども。数百年に及ぶ呪縛を解くのは、我々"終末の天使"だ……!
◎◎◎
ルミナ達は地下室へと半ば連れていかれ、集落の長の前へと立っていた。
まず護衛の一人が長へと耳打ちをし、その後、長が手のひらを使って護衛達を地下の別室へと下がらせた。
長が、口を開く。
「このような無礼を、お許しください。旅の方々。もう行ってもらって大丈夫です。宿の方もこちらで取らせていただきました」
「……ふぅーん。もう用無しだってのかい?」
「そうでありま——…‥その声はまさか、アルタイル・クラウド!?」
「フン。気づくのが遅いねぇ。…‥久しいな、長」
「……やっぱりお前達は直ちに帰ってもらうとしよう」
「えっ?」
「……クラウドさん、アンタこの集落で何したんだ……」
タウリーがクラウドに対して呆れたような目をしている。それを弁明するかのようにクラウドは話し始める。
「大したこたぁしてないよ!……ちょっと街中で爆発したってだけで……」
「大したことしてるじゃん!」
「爆発すると駄目なんですか?」
「ルミナは黙ってて」
「うっ……はい……」
「全く……まさか貴様がまたこの集落に来るとは思ってもみなかったぞ。それで、ここには何しに来たんだ。今ここは貴様に構っていられるほど、暇ではないんだ」
長がそう言うと、クラウドやタウリーよりも先にルミナが長へと聞いた。
「この集落で、何が起こっているのですか?」
「……知っても、良いことはないぞ」
「もし困っているのであれば、力になれるかも知れないので……」
沈黙が走る。長は目を見開き、タウリーとクラウドはお互いの顔を見合わせた。
沈黙の後、見開いた目を戻しルミナを真っ直ぐと見た。
「……本当に、力になってくれるのか」
「はい。私達が出来る範囲であれば、力になりたいのです」
「……そうか、ありがとう。ならば聞いてくれ。今この集落に起こっている、ある事件のことを……」
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