episode2.7




          ♒︎













「まさか……あれほどの力を持っているとは……君のおかげで助かったよ、アルデス」




 サダルがそう言うと、その前に立っていた少女が返事をする。炎のように赤い、逆立った髪と猛牛のような角を頭に抱えた少女である。




「まあな。しっかし、まさかアタシの模倣アンドロイドもやられるとは……早くやりあってみたいぜ……!」


「……まあ、まずはこちらの戦力を集めるとしよう。アルデス、他の者達はもう来ているのか?」


「あ~それなんだが……二人、もう居るぞ。それと六人は連絡が取れてる。他の二人は……まだ連絡がついていない」


「そうか。連絡がつかない理由はわかるか?」


「さぁな……ま、ハルとレイのことだ……きっと、意図的に連絡がつかないようにしてるだけさ」


「あら、他の人達がいなくても"箱"なんてすぐ無力化して、その力を掌握してしまえばいいじゃない。にしても……あなた何故そんなにボロボロの姿なの?」




 サダルとアルデスの前に現れたのは、母性的な雰囲気を醸し出し、ショートボブの茶髪と茶眼を持ったアンドロイドである。




「"ルーノ"か。君も、前よりおばさん臭くなったじゃないか。会えて嬉しいよ」


「ふん。相変わらず嫌味ったらしいじゃない。……今この場でズタズタに引き裂いてやっても、良いのよ?」


「おいおい……お前らそんな殺気立つなよ。こっちも興奮してくるじゃないか……!!」


「なんでアンタが闘う気なのよ……」


「うるせぇ!こっちは久々に目覚めてから一回もこの角使えてねぇんだぞ。サダルの頼みで模倣品使ったが……今度はアタシがやるんだ」


「ハァ……この戦闘バカ。何百年も寝といて少しも変わりないんだから……」


「良いじゃないか。どちらも、期待しているからな。アルデス、ルーノ」


「僕も、居るんだけど……」


「何だよ、てっきり聞いてねぇと思ってたぞ、"テレス"」




 華奢でなで肩の少女が暗闇から姿を現した。その少女は紫のショートな髪と紅の伏せ目がちな瞳で三人を見る。




「ねぇサダル。その傷……」


「ああ、……箱と戦った」


「……」


「……へぇ」


「箱、強かった?」


「強い。恐らく、我々の誰よりも圧倒的に。十二宮兵器は勿論だが、核融合を利用した超駆動が可能となっている。流石、スタリング・メルトウェルが開発したオリジナル機体という訳だ」




 一瞬の沈黙。しかしそれをサダルが破る。再び口を開く。




「だが、彼女はただ一人だ。見たところ十二宮兵器は複数を同時に使用出来ないようだ。超駆動も、私達のように活動限界があると見た。こちらが複数人でかかれば鹵獲も容易だろう」


「……そう。ならいいわ」


「ま、その前に……タイマンでやらせてもらうからな」


「僕の針を使えばすぐだと思うんだけど……」


「まあ、おいおい作戦を練るとしよう。彼女達が、そのままやられてくれるとも限らないだろうからな……」














         ◎◎◎













 シリウスより北の集落。山岳地帯の前に佇む十数件の家によって構成される場所へと、ルミナ達は向かっていた。


シリウスへと至る道と同じ——ではなく、往来が多いからか道と呼べるような砂利道を行く。


勿論人工物が自然によって淘汰され、大昔のような物は一切残っていないと言える所を歩いてはいるが。


しかし、幾分か見晴らしの良い丘を登っている途中で、ルミナ達は一息ついていた。




「いや~ここは見晴らしが良いね!ね、ルミナ」


「……」


「……もしかして、サダルのことを考えてるの?」




 そう問うタウリーは、あえてルミナを見ずに、丘から小さく見える北の集落を目を細めながら見て、言った。その問いにルミナが答える。




「……はい。何故、サダルはあそこまでして私を連れていきたかったのか。私の力を使って、何をするつもりなのか……」


「確か……事情がある、とだけアイツは言ってたね。なんの事情があるんだか……また戦争でもしようってのかい?大昔の、滅びた文明のように……」


「サダルは何がしたかったんだろうね?」


「……(でも、旅をやめたくない……この気持ちは確かにあることだから……)」




 会話は自然と途切れ、再び歩き出す。北の集落へと向かって。


麓に存在するその集落の近くには、薄暗い雲が蔓延っていた。













         ◎◎◎













 ルミナ達が来る、少し前。北の集落"レグリウス"では、ある男性の叫びから事件が起こっていた——




「これで三人目よ……この集落はどうなっちゃうのかしら……」


「なんでも、シリウスからも戦士を呼ぶそうだぞ」


「それが一番だろうな。長たちが決めたことでもある。それだけ今回は緊急事態、というわけでもあるんだろうな」


「ねぇママ。また人が死んじゃったの?」


「……ええ」


「ママも私も、死んじゃうのかな?」


「大丈夫。ママも居るし、パパだっているわ。あなたは生きる。私達も生きる。良い?」


「……うん、わかった」






 集落の集会所にて——






「これで三人目ですよ、長!……そろそろアレを使ってもよろしいのではありませんか?」


「駄目だ」


「っ!!……ですが——」


「駄目なものは駄目だ。アレを使っているところを集落の者、そして万が一にも他の集落の者に見られてみろ。……我々はまた、歴史を繰り返すことになる」


「じゃあ見殺しにしろって言うんですか!?」


「そうではない。我々がこうして臨時集会を開いていることも、シリウスから戦士達を呼んでいることも、全てはこの事件を早急に終わらせるため……そしてアレを使わないためでもある。本当に後が無くなった時は……考えようではないか」


「ッ、……分かりました。よろしく頼みますよ。他の者も、異論はないな?」


「…………………………」


「なら解散!各自いつでもことが起きて良いように警戒を怠るな。良いな!」




 そう男が言うと、十人程の男達が一つの建物からぞろぞろと出ていった。


そこに残ったある男。この集落の長だけが建物に残っていた。




「(アレだけは……アレだけは、使うわけにはいかないのだ……!)」




 男は一人、選択を迫られていた。

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