episode2.6

「《宝瓶宮:サダルスード》」




 ルミナがそう水の中で唱えた矢先、タウリーやクラウド、そしてルミナ自身を覆っていた水達がルミナの背後に開いた超次元の扉の彼方へと戻っていった。




「うっ、ゴホ!がはぁ!……ハァハァ……——」


「ゴホッゴホッ!!……使えたじゃないか……良く、やったよアンタは……——」




 二人は意識を飛ばし、その場に倒れた。ルミナが歩み寄り、二人を部屋の隅へと寝かせた。そこにホープも駆け寄る。


改めて、サダルへと向き直る。




「……私が、二人を……大切なものを守ります……!」




 目覚めたルミナの関節部分から、緑の粒子が煌々と排出されていく。


その眼前にはルミナと同じようにしかし揺らぎを多く見せながら、サダルの関節部分からも赤く光る粒子が飛び散る。




「……まさか、コントロール出来ているのかっ!これでは私一人では厳しそうだな……」


「サダルに危害を加えるつもりはありません。どうか、このまま引き下がってください」


「……!そういう訳にもいかない。私にも事情というものがあるっ!ハァア!!」




 サダルはもう一度超次元の穴から水を操り、大きく広がった水を小さく鋭く剣状にし、その剣を手に取った。


他にも周りの水を槍状へと変化させ、全てをルミナに向けた。




「少し乱暴するぞ……ルミナ、恨んでくれるなよ……!!」


「!!」




 ルミナに向けられた水槍が容赦なく凄まじい勢いで飛び交う。


四方八方から飛ぶ殺戮物を間一髪でかわす。しかしその槍が止むはずもなく、さらにその間を縫うように水剣の切先がルミナを貫こうとする。


ルミナはその刃を避けつつ、守るための水の盾を複数作り出す。水槍をその盾で守る。一つ二つ、三つ。背後からの槍を避け、他の槍を自身の水と混ぜて無力化し、吸収した。




「先程と同じように私の操る水を吸収したか……やはり同じ《宝瓶宮の力》という訳だな。しかし!そんなもの、吸収されたとて何の意味もないぞ!」


「やはり、無尽蔵の水を取り出せるようですね……(サダル自身を倒さなければ、二人を守れない!!)」


「(ルミナには他にも、十二宮兵器がある……しかしそれを使う素振りがない。同時に二つ以上使えないのか……?)」




 ルミナは新たに水の盾と剣を複数生成し、再びサダルに構える。サダルも同じように盾と槍を複数生成し、ルミナへと構える。




「今度こそ……無理矢理にでも着いてきてもらうぞ!ルミナ!」


「(私は……私を……!)……サダルの好きにはさせません!!」




 両者ほぼ同じタイミングで駆け出し、同時に水槍と水剣が交わる。水盾がそれらを包み、互いに無力化していく。


ルミナが手に持つ剣とサダルが持つ剣も交わる。鎬を削り、鋭利な水が宙に舞って普通の水へと変化していく。


互角の闘いを続けながら、どちらも水を操り続けていた。距離をとってはそれぞれの槍と剣が交わり、盾が交わって無力化する。そして距離を詰めては鎬を削る。これを同じように繰り返していた。


 互いに体が軋む。




「(クソ……連続駆動の限界が近い!ルミナの方が駆動時間としては長いはず……なのに何故私と互角、いやそれ以上の力で私を押してくるっ!?……いや、ルミナにも限界があるはずだ)——ハァハァ、そろそろ……決着つけようか、ルミナ」


「守るために……あなたを倒します」


「行くぞ……」


「……!」




 サダルが仕掛ける。手に持った剣をルミナへと振りかざす。ルミナも剣で受ける。腹、頭、右腕へと狙いを様々につけて、サダルは剣を振るう。その勢いにルミナは押されていた。




「(くっ……どうすれば……いや、私は……)」


「どうしたルミナ!限界か!なら、私との勝負に負けて、ついてきてもらおうか!!」


「私は、負けません……!!」




 互いに剣を振るう。時に蹴りを入れつつしかし、サダルがルミナを押す展開が続いた。




「(このままでは、負けてしまう……それでも私は——)」




 その時——ルミナの中に、力が漲る。




//\\——人工細胞組織スターマイン、ルミナ・メルトウェルの意思を感知。リミッター解除。……あなたに星の加護が在らんことを——//\\




「(誰かが、私を呼ぶ声……ありがとう)——全開で行きます!!」


「なにっ!?」




 押されていたルミナが、サダルを確実に押し返す。剣のスピードが上がる。ギアの違いが、彼女達の間にある力の差を決定づけていた。


一撃、二撃、そして三撃目。サダルの剣が折れ、同時にサダルがオーバーヒートによって十二宮兵器が停止した。赤い粒子の散布が止まっていることが、その証拠であった。




全て、一瞬の出来事であった——




 動きが止まり、ルミナを見るサダル。所々から赤い粒子が再び煌いていたが、既に限界が近いからか、十二宮兵器を十分に発揮出来る状態ではないようだ。


 ルミナが歩み寄り、言葉を掛ける。




「あなたの負けです、サダル。私は諦めてください…‥私は、わたしの旅を続ける」


「フフッ……参ったよ。まさか君にまだ隠された力があったなんて……それに、私も君を諦めたわけじゃない。この借りは、また返させてもらおうか——」




 そうサダルが言うと、サダルの背後から超次元ホールが現れ、あっという間にその穴の中に消えてしまった。




「(……"終末の天使"は、一体何をする気なんでしょうか……私の力が必要、と言っていたサダル。私にはまだ隠された力があるのでしょうか?)」




 一人、そんなことを考えていると、いつの間にか目を覚ましていたタウリーとクラウド、そしてその側にいたホープがルミナの元へと走って来ていた。




「ルミナぁー!!」


「アンタ、ボロボロじゃないか!……それに、サダルの奴はどこいったんだい?」


「サダルは超次元ホールに消えました……また私を狙ってくると思います」


「そっか……でも、ルミナが無事で良かったよ!……守ってくれて、ありがとう」


「そうだよアンタ。お陰で旅が続けられるってもんだ!アンタの研究も、出来るしねぇ~」




 それぞれの、特にルミナの無事に喜び、笑顔で労いながらサダルの強襲の後を過ごした三人であった。


その側で喜びを表すかのように、跳ねながら舌を出して鳴くホープもいた。

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