episode2.5

…………………………。




「……そんな、はずは……」


「すまないルミナ。しかし、これは現実だ。君には兵器が宿っている。こればかりは、私たち全員が目にしていることだ」


「……ルミナ、その……でも、ルミナはシリウスで暴れ出した奴らとは違うはずだよ!……だから」


「ありがとうございます、タウリー。…‥大丈夫です」


「ルミナ……」


「そちらも気になるが……今は置いておこう。それよりも、今回襲いかかって来たやつについてだ」




 サダルが眉間に皺を寄せながら、腕を組んでハッキリと言った。




「あれは、十二宮兵器を持ったアンドロイドだ。でも、あれは"終末の天使"ではない。恐らく、何者かが模倣して作ったものに過ぎない」


「十二宮、兵器……?いったいなんだいそりゃ?」


「我々、"終末の天使"と呼ばれた所以はもう皆分かるはずだ。圧倒的破壊力を持って、敵国を殲滅し続けたからだ。そしてその力の源となっているのが、十二宮兵器。星座と呼ばれるものから取られた名前と力を持つ。我々が十二人であることは、これに関係している」


「十二宮、兵器……」


「しかし、我々もその力が何処から来ているのか分からないでいた。なにしろ、我々を作った学者どもも、一人を除いて、その機構を半分も理解していなかったからな」




 サダルは少しルミナを見つつ、話を続けた。




「唯一、METSISの根幹に最も近い存在であった、我々を作り、育て、兵器を持たせた男、"キーファ・ボレアリス"ですら、その力を借りている、とだけ教えてくれた。その借り先には真の力を持つ存在、"名もなき神"がいる、ともな」


「名もなき神、ね……一体全体どうなっているんだか。アタシにゃサッパリだよ」


「その名もなき神、一体どこにいるんだろうね……?」




 タウリーがそう呟くと、サダルは視点をより一層、ルミナの方へと強く向けた。




「君だ、ルミナ。その名もなき神……スタリング・メルトウェルが作りしオリジナル機体である君なんだ」


「え!?」


「へぇ……アンタなのかい」


「い、一体……どういう」




 ルミナは自分に向けられた三者三様の視点を逸らすかのように、目を泳がせた。




「君はあの時、兵器と思しき物を使っていた。それはこちらから見ていた者からすれば明らかだ。そして何より、あの十二宮兵器を使用するアンドロイドを粉砕してみせた」


「……」


「さらに、各関節から出ていたあの光粒子……あれは十二宮兵器を動かす上で大切な動力源である核融合の副産物だ。基本的には赤色であるが……どうやら君はやはり特別なようだ」


「……でも!——」


「だからなんだ?とでも言いたそうだが……それは叶わないよ。君は自分が何者であるか、知りたがっていたじゃないか。これが君の正体だ」


「……!」


「ルミナ……」




 沈黙が走る。サダルがルミナに向ける瞳には、そこにはもう人でないものが映っている。




「ルミナ。君の旅はここで終わりだ」


「!!」


「ちょっと、急にどうたのさサダル?いくらルミナが特別でも、旅を終わらせる必要なんて——」


「いいや。私とともに来てもらうためだ」


「ちょっとアンタ一体どういうつもりだい!?大体アンタも他のアンドロイドを——」


「その必要はない。君達には隠していたが、既にルミナの存在を仲間に通達済みだ。奴らのことだ……じきに全員集まる」


「……行きません」


「ルミナ……その気持ちは分かる。だが、これは君にとっても——」


「行きません!」


「そうだよ!勝手に僕らの旅を終わらせなんてしない!」


「フン。アタシゃどっちだっていいが……この子らには、生きる希望を貰ったんでね。アンタの好きにはさせないよ」


「ワン!」




 ルミナの前に立っていたサダルの間に、タウリーとクラウド、そしてホープが立った。




「……そうか。しかし、私もどうしても引き下がれない事情がある。少し乱暴することになるが…‥構わないな?」


「くっ!」


「ルミナ、さっきの奴をやっつけたように出来る!?」


「やり方が——」


「やり方どうこうじゃない!やるんだよ、アンタは!!」


「!!」


「やらなきゃ……アンタが望むものは手に入りやしないよ」


「……やります!」


「……本当に、やる気のようだな。なら、こちらも初手から全力でやらせてもらう。《宝瓶宮:サダルスード》……!!」




 サダルの体から赤い粒子が舞う。それに呼応するようにして、超次元の穴から水が現れた。


瞬く間にルミナ達の体に取り付き、キツく纏わりつく。そんな状態でまともに呼吸出来るはずもなく、体を水の中でうねうねと蛆虫の如く動かすだけである。


段々と意識が遠のいていく中、ルミナは十二級兵器を繰り出すよう出来ることをしていた。が、既に視界は光を失いかけていた。




(動け…‥動いて……みんなを、助けるの……!)




 そんな願いも虚しく、力を出せず、ルミナの意識は遠のいていく——














          ☆














 意識の底で、ルミナはある夢を見ていた。


そこはルミナにとって暖かく、懐かしい気配を纏って眼前に現れた。




(ルミナ……ルミナ……)




 誰かが呼びかける声に、ルミナが反応する。




(誰?……でも、何か、懐かしいような……)


(ルミナ。これは君が君自身の力について気づいた時、特殊な回路によってのみ流れる記憶だ。一回しか流れないから、良く聴いてほしい)


(…………。)


(私は、……私は本当は、君にこの力を付けるつもりは無かった……でも君が、守りたいものを見つけた時、何の力もないままではなす術無く散ってしまう。そんなことを、私自身がさせるわけにはいかなかったんだ)


(あなたは、一体…‥誰?)


(これから君が手にする力は、簡単に言えば世界を変えられる力だ。だけどそれを、君が大切にしているものを守るために使ってほしい。……イルミナをモデルに作った君なら、きっと大丈夫だろう。この、スタリング・メルトウェルが保証しよう)


(スタリング、メルト、ウェル……?)


(行きなさい、ルミナ。大切なものを守る心、忘れるな)


(待って……待って!!)




 ルミナの目覚めと同時に、緑色に光り輝く粒子の揺らぎが、始まる。

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