episode2.4
「ルミナ……?どうしたの?」
タウリーが呼びかける。しかし、ルミナからいつものような返事は無かった。もう一度、大きく強く、呼びかける。
「ねえ、ルミナ!!」
「おいそこのガキ。あんまりうるせぇと、燃えカスにしちまうぞ」
「タウリー。今の彼女に返事をするような思考は無いよ。とりあえず、ここから離れるんだ」
「……どういうこと?」
困惑し立ち尽くすタウリーの手を引き、駆け足で離れようとするサダル。そこに続くように、クラウドとホープも駆け出す。
「さて、やっと邪魔者が退いたか。これで心置きなくやれるってもんだなぁ!!」
赤い粒子を燦然と撒き散らし、ルミナへと走り出す。蹴り出しによって地面が抉れると同時に、ルミナへ右拳が繰り出される。
「……」
相手の炎の少女とは対照的に終始無言で緑の粒子を排出しながら、繰り出された拳を何なくかわす。
ルミナの目に、タウリー達への焦点はない。
少女が拳と蹴りを繰り出す。一回二回、そして三回。その怒涛の猛撃を、ひらりひらりとかわす。一回二回、三回。
「避けてんじゃねぇ!!」
「……排除」
\\//十二宮兵器、発動。出力感知、調整。//\\
「《人馬宮器:サテュロス》」
「ははっ!!やっぱ使えるみたいだな。ならこっちも、出し惜しみはナシだ!!《金牛宮器、アルデバラン》!!」
ルミナがそう呟くと同時に、掌から超次元収納扉が現れ、光り輝く矢と強弓が姿を現した。粒子の散布は止まらない。
そしてそれに呼応するように炎の少女が呟くと、元々生えていた角が違う形へと変形し、禍々しいと形容するのが正しいであろう姿となった。こちらも一層、粒子が煌々と光り輝く。
「…‥排除」
「いっくぜえぇ!!」
超加速しながら頭を垂れてルミナに突進する。その速さは先程を軽々凌駕し音を置き去りにした。
ルミナに当たる、と思われたがその突進先にルミナは居らず、いつの間にか背後に回って強弓を力強く、しなやかに引いた状態であった。
矢を射る。光の矢が一つから二つ、そして無数に分裂し、猛スピードで猛牛に襲いかかる。無数の矢は、全て彼女に向けられていた。
その矢をひらりひらりとかわし、しかし全てを避けられなかった様子で、その矢が後方の地面に刺さり光を撒き散らしながら爆発した。
少女の左角が根元の部分から上を損傷した状態で、少女は表情を歪めながらふらりと立っていた。
「くっ……流石"箱"、と言ったら良いか?だが、勝負はこれからだぜ?おらぁぁ!!!」
「……排除」
同じように突進しながら、しかし螺旋状に回転しながらルミナへと突き進む少女。ルミナの瞳にはその少女すら、映っていない。
♒︎
「まさか、あれ程の力を持っているとはな……」
「ねぇサダル!!ルミナは……ルミナは、どうなっちゃうの!?ねぇ!?同じアンドロイドなんでしょ!」
タウリーが私にこうも声を荒げているのを見て、正直胸が苦しくなる。なんせこう仕向けたのは、私なのだから。
「分からない……相手の情報も謎だ。とにかく今は、この燃え盛る木々をなんとかする」
嘘だ。だからこそ、彼らを巻き込む訳にはいかない。
「《宝瓶宮器:サダルスード》。名もなき神よ。その力を授けたまえ」
超次元から開かれた扉の先、実際には私にもどこから来ているのか分からない海が映っている。
怒涛の勢いでその水が燃え盛る木々へと流れ出す。私は掌でその水をコントロールし、あっという間に鎮火させてみせた。
「これで火の心配はないだろう……クラウド!収納庫はあるか!」
「アンタに言われなくてももう開いているさ!早く来な!」
「ひとまずこの中に入るぞ!……タウリー、ここは彼女に任せよう。行くぞ」
タウリー嘘をついた私を許してくれ。
「……うん」
収納庫へ入り、瞬時にその収納庫に光学迷彩をかけてある。クラウド、こんなものまで作っていたのか……。
…………………………。
……いつまで入っていただろうか。頃合いを見て、ルミナの様子を見に行きたい所だ。
◎◎◎
タウリー達が収納庫から出ると、周辺の木々がボロボロの状態で焼け落ち、そこかしこが平らになっていた。草花は見る影も無い。
そんな開けた地に一人へたり込んでいる女の子がいた。ルミナである。
タウリー達は駆け寄った。ルミナはどうやら気を失っているようだ。既に緑の粒子は、関節部分から出ていない。
そして炎の少女である。既に原型を保ってはいなかった。ズタボロのボロ雑巾よりも、酷い状態である。
「ルミナっ!ルミナっ!!」
「タウリー一回落ち着け。死んでなんかないよ。気を失っているだけだ」
「全く……まさかコイツも兵器を持っていたとは……ククク、目が覚めたらどうしてくれようかね……」
「クゥン‥‥」
ひとまずもう一度収納庫に入り、ルミナが目覚めるまで待機することとなった。
◎◎◎
「……ここ、は?」
「ルミナ!!良かった~!目が覚めたぁー!!」
「ワン!ワン!」
「やっと気づいたかい」
「……」
目を覚ましたルミナを、タウリー達が取り囲んでいる。皆安堵した表情である。
「私は、一体……」
「……何も、憶えてないの?」
「……はい。爆発音がした辺りから記憶が、無くて……」
何も憶えていないルミナに、サダルが今までのことを伝えた。全員が静かに聞いていた。
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