episode2.3

 クラウドに言われて、三人とも入り扉を閉める。幻かと思われたが、どうやらこの大部屋たちは現実のようだ。


ルミナとタウリーは目を大きく見開き、眼前に広がる光景にただ驚くだけであった。




「驚いたかい。これが、アンドロイドがいた時代の発明みたいだよ。全く、我ながらなかなかちゃんと出来てるじゃないか」


「ああ。トワレの軍でも使われていたものとほぼ同じだ。クラウドは凄いのだな」


「……褒めたって、何も出やしないよ。ホラ、アンタらもボーッとしてんじゃ無いよ。とっとと飯食って寝るさね」


「はい」


「は、はーい」


「ワンワン!」




 そう言ってテキパキと準備を始めるクラウドには、頼もしさがあった。


言われるがままにいそいそとご飯の準備を、各々が始める。いつの間にか部屋の真ん中に出されたテーブルに、それぞれが持っている食糧を出し始めた。




「今日は料理しないけど、アタシゃ基本料理する派なんだ。アンタらに食べてもらうからね」


「え、良いの?」


「良いも何も無いわ!アタシがそうするって言ってんだから、つべこべ言わずに食いな。いいね?」


「やったー!」




 タウリーは、クラウドの言葉に歓喜しながら、ウキウキで食事をとり始めた。


そんな様子を横目で見ながら、他の三人も食事を取り始める。


 そこからはあっという間に寝る時間へと滑り込んだ。皆、言葉にはしないが、疲れていたからである。


クラウドとサダルは、皆で食事を取った部屋とは別にある二つの部屋にそれぞれ行き、タウリーとルミナはそのまま部屋に残り、タウリーが持っていた寝袋に入って眠りについた。


 思えば長く、色濃い一日であったと言えよう。湖から汚染地を避けながら集落であるシリウスへと来た。そこでクラウドとサダルに出会い、今こうして共に旅をしている。


 暗い部屋の中で、ルミナがタウリーに話し掛ける。




「タウリー、ごめんなさい。勝手に同行してしまいました」


「大丈夫だよ全然!むしろ、良かったんじゃないかな。変わらず大陸一周は目指せるし、それに……人が多くいた方が、賑やかで楽しいしね!」


「……それなら、良かったです」


「……うん!ルミナが何者なのかも、きっとこの旅で分かるよ!そのためにも、他のアンドロイドを見つけようね」


「はい……!」




 二人、決意を固め、また歩き出すために眠りにつく。




「おやすみ、ルミナ」


「おやすみなさい、タウリー」













          ♒︎













 一人部屋で良かった。他の者達に見つかるわけにはいかない。見つかる訳にはいかないのだ、今はまだ。




——//宝瓶宮器サダルスード、起動//——


——//起動コード、確認。今回はどうされますか?//——




「全十二宮兵器に通達。特製電波による妨害を付与しろ。起動が完了していない個体についてはログに残せ。頼むぞ」




——//確認。十二宮兵器を認識。通達を行います。……空間調和完了。量子運動数値把握。特製電波散布。……秘密性99%。では、通達開始。//——




 これは、あの男の夢でもある。私一人で潰すわけにはいかない。失敗は、許されない。




「全十二宮兵器に通達する。聴こえているか、お前達。まず、長きに渡る戦争は終結している。この世界は、既に別世界と言って良いだろう」




 みな、聴こえているのだろうか。私と博士の夢を、憶えているだろうか?




「そして急で悪いが聴いてくれ。私たちの夢、そして博士の夢である計画"ニュイ・エトワレ"への箱を見つけた。あれだけ退屈で辛いだけだった戦争中に、必死に探していたあの箱だ」




 いや、たとえ一人になろうとも、必ず成し遂げてみせる。それが、博士との約束だから。




「私の五感情報を量子に流す。そちらの方を確認してくれ。恐らく、間違いないだろう」




 私たち、いや、私たち以上のもっと凄まじく、破壊神とも呼べる破壊力を備えたオリジナル機体。




「あの"スタリング・メルトウェル"が残したオリジナル機体。人工知能生命体METSISのオリジン。……幸い、彼女には記憶が無いようだ。上手くいけば、すぐにでもニュイ・エトワレが実行可能だ」




 名もなき神に、救いの手を。




「同志達の協力を命令する。どのやり方でも良い。必ず捕縛する」




 ……ルミナ、君は——




「以上だ。通達を終了する」




——//回線回収。調和解除。機能停止します。//——




 ルミナ・メルトウェルは、私が掌握する。













         ◎◎◎













 彼らの朝は早かった。クラウドが全員を早朝に叩き起こしたためである。


いつの間にか作られた料理を、全員で囲んで食べる。


全員の目を覚まさせるには、その料理の洗練された味だけで十分だったようだ。クラウドは終始満足気であった。




「それじゃ、全員準備は終わったかね?」


「ああ。いつでも行ける」


「こっちも大丈夫!」


「ワン!!」


「……行きましょう」




 クラウドが頷き、異次元収納庫を仕舞う。




 「それじゃ、出発!」




 そう告げ、タウリーとクラウドを先頭に道なりで進み始めた。


朝日が昇り、動物達が朝を告げる。木々や草花も、まるで今日という日を歓迎するかのように風に揺れ、気持ち良さげにしていた。


 すると、急に近くの場所から何かが爆ぜるような音が鳴った。




 瞬く間に炎と黒煙が立ち上がり、木々がパキパキと悲鳴を上げ始めた。


鳥が一斉に飛び立ち、その異常性を膨らませる。




「な、なんだね!?」


「クラウドさん、危ない!」




 爆ぜた木々の破片が、クラウドを襲う——と思われたが、サダルが軽々弾いてことなきを得た。




「あ、ありがとね、アンタ」


「……」




 ごうごうと燃え盛り、時折爆ぜるようにして燃え続ける炎の中から、一人の少女が現れた。




「お、いたいたー!……アンタらだろ。なんだか変な粒子を出してんのは」


「だ、だれ!?」


「小僧、アタシに聞いてどうするのさ!?」




 燃え盛る炎のような髪に、まるで猛牛のような角を持った少女は、少しの沈黙を持ってまた話し出す。




「久々に戦えそうな奴らだ。私の感がそう言ってるからな。相手になってもらうぜ」




 そう少女が言うと、各関節部分から赤い粒子を散布しながら、鬼神の如き速さであっという間にルミナの目の前に躍り出た。




「おめぇにいってんのさ!!」




 振りかぶった拳を振り下ろされ、赤い粒子が飛び散る。ルミナの顔にヒットした——かに見えた。


ルミナは右手一本でガードし、各関節部分から緑色の粒子を散布していた。


ルミナの口から、無意識に言葉が紡ぎ出される。




\\//殲滅型戦闘敵意確認。超次元動力炉発動。スターマイン損傷率0%。流動有効。排除行動へと移ります。//\\




 その目に、仲間の姿は映っていない。

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