森を斬り裂く


翌日も、翌々日も。

ソラたちは森に大穴を開けて、しっかりと休むようにした。

そのおかげで、ソラたちの行進は速くなっていった。


モラ大森林の魔物たちにも慣れてきた。

対処の仕方さえ分かれば、なんということはない。

果てない疲労感から解放され、皆の表情は明るくなっていた。



「モラ大森林の先は、ホラボラ平原……、だっけ?」


「ホランボラン平原だ。この辺りよりも厄介な魔物がいるらしい」



グンバが斧を振ってソラに答えた。

ソラは苦笑いし、グンバの斧の一撃に合わせて魔物を追撃する。

グンバの斧の威圧により、動きを鈍らせた魔物が数匹。

ソラはそれらを一瞬で刈り取った。



「……ふう。それで、そのホランボラン平原の前に、村があるって?」


「そうとも。オドの故郷みたいなもんだな」



そう言ったグンバが、魔物を魔法で焼き払うオドを見た。

グンバの視線に気付いたオドが、会話を察して大きく頷く。



「はっは。そこで生まれ育ったことはありませんが、たしかにリザードマンの源流がそこにありますな」


「こんな魔物の巣窟みたいなところでリザードマンたちが住んでるって……とんでもないね」


「はっは。ソラ殿。そうでもありませんぞ。かの地はさほど危険ではないので、生きやすいのです」


「……どういうこと?」



ソラは首を傾げる。

モラ大森林も、ホランボラン平原も、魔物が多数いると聞いているからだ。

となれば、生きやすいことなどあるはずがない。

しかしオドがソラの思考を汲みあげ、首を横に振ってみせた。



「行けば分かるでしょう。まことに、最後の楽園と呼ぶにふさわしい場所ですぞ」


「最後の……楽園」



オドの言葉に、ソラは目を細めた。

ホランボラン平原を越えれば、まともに人が住める場所が無いという。

魔王と魔物が、世界を蝕みつづけているからだ。

このまま時が経てば、さらに蝕まれ、人の住める土地など無くなってしまうだろう。



「行こう。必ず、最後の楽園なんて呼ばれない土地にしてみせる」



剣を握って言うと、オドが大きく頷いた。

グンバも、シェルトラも、メルも、決意を新たにして北を睨む。


北から、邪な気が流れてくるのを感じた。

孕んでいる冷気が肌を叩き、流れ、抜けていく。

ソラは冷気を払うように、剣を振りあげた。

次いで、一息に魔法を放った。

剣撃と魔法の轟音。深い森を斬り裂くようにして駆け抜けた。

巻き込まれた多くの魔物が、黒い塵となって消し飛んだ。



「やるじゃない。私も負けてられないわね」



斬り開いて出来上がった道を、シェルトラが先頭になって駆けだした。

つづいてオドとメルが行く。



「俺が作った道なのに!」



ソラは剣を振って後を追った。

その背を、グンバが思いきり叩く。



「はっは。誰が作ったかなんぞ、後から走る者には関係ないわい。道は進むためにある。ぼやぼやしてっと、置いていくぞ。ほれ」



グンバが笑い声をあげ、斧をくるりと回した。

ソラは大きく咳き込み、数歩よろめく。

焦げた地面が、ざくりとソラの足をとらえた。



「……たしかにそうだよな」



片眉を上げ、顔を上げる。

北に向かって裂けた空が、嘲笑うように揺れた。

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