最後の楽園

最後の楽園。ヘルゼテエロ。

ホランボラン平原に入る直前の、森の中に集落を築いている。

話に聞いた通り、ヘルゼテエロにはリザードマンが多く住んでいた。

他の種族もいるにはいるが、捜そうとしなければ見つからないほどの数しかいなかった。



「知り合いがいるんじゃないか?」



ソラはオドに尋ねたが、オドが首を横に振った。



「私の生まれ育った集落はここではありませんからな。皆、知らぬ者ばかりです」


「じゃあもしかして、あまり歓迎されないかも?」


「そんなことはありますまい。我らは勇者一行なのですから」



そう答えたオドが、村のリザードマンに声をかけた。

宿屋はあるかと尋ねると、村のリザードマンが快く場所を教えてくれた。

勇者一行であることを伝えると、村一番の宿まで教えてくれた。



「というか、宿屋なんて儲からないでしょ、こんな土地で」



シェルトラが首を傾げた。

しかしそんなことはないと、オドが周囲を指差した。

周囲には旅装のリザードマンが多くいた。

いずれも魔法使いや戦士のようで、使い古した武具を背負っていた。



「リザードマンは強者ばかり。いくつかの集落を渡り歩き、戦いながら生きているのです」


「じゃあ、この辺りには他にも集落があるってこと? 知らなかったわ」


「はは。他は野営地のような小さな集落ばかりのはず。ここヘルゼテエロしか知られてなくても仕方ありませんな」



そう言ったオドが、周囲のリザードマンたちに向けて腕を上げた。

腕を上げる仕草はなにかを意味するらしい。

周囲のリザードマンたちもオドと同じように腕を上げ、歓声を上げた。


そうして夜。

ソラたちが泊った宿屋を囲い、宴がはじまった。

勇者一行が久々にヘルゼテエロまで到達したことを祝って。



「いや、俺、未成年だから酒なんて飲めないんだけど……」



進められる酒を断りつづけるソラは、困り顔をしてシェルトラの傍へ逃げた。

オドもグンバも、浴びるように酒を飲みつづけているからだ。

断り切れずに飲んでしまったメルは、すでに酔いつぶれている。

酒を嗜まないシェルトラだけが、ソラの最後の砦であった。



「未成年ってなによ。剣を手にした時点で立派な大人でしょ」


「そんなわけないだろ、馬鹿じゃねえの」


「馬鹿ってなによ。まったく、あんたってホントに頼りないわね。お酒ぐらいパパっと飲んじゃいなさいよ」


「じゃあ、シェルトラはなんで飲まないんだよ」


「私は腐った果汁が好きじゃないのよ」


「腐ってないだろ、酒は」


「一緒よ」



顔を背けたシェルトラが、果物のジュースを飲み干す。

「やっぱりこっちのほうが美味しいわ」と眉を上げ、おかわりを頼んだ。

たしかにそうかもと、ソラも果物のジュースを飲む。

以前の世界にあった缶ジュースなどとは比較にならない美味が、ソラの舌を打った。

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