瞼の裏に浮かぶのは

レイナもまた、魔法使いの暗殺者に苦戦していた。

躊躇いなく急所を狙ってくる魔法攻撃に、レイナは魔法の盾で受ける一方となった。

というより、反撃することが躊躇われた。

反撃に成功すれば、人を殺してしまうかもしれないからだ。



「人を殺すのが怖いようですね」


「当然でしょう? あなたと一緒にしないで」


「はは。大して変わりませんよ。直接的でなくとも、人を殺すことは出来るのです」


「……どういう意味?」


「この企みが成功しようとしまいと、我らは死ぬでしょう」


「どうして……?」


「暗殺者など、世に留まれるはずがないからです。だからこそ我らはせめて、目的を果たす」


「勝手なこと、言わないで!」



レイナは暗殺者の魔法を弾き返し、怒鳴った。

次いで、防御魔法を展開する。

光り輝く魔法の障壁が、レイナを包んだ。


直後、暗殺者の魔法が四方から飛んできた。

魔法障壁を穿とうと、間髪置かずに攻撃すつづけてくる。

あまりの威力に、レイナの周囲の床や壁に大穴が開いた。


粉塵が舞う。

周囲が真っ白になる。

暗殺者の姿だけでなく、女騎士の姿も見えなくなった。

レイナは目を凝らす。


瞬間。鋭い金属音が鳴った。

同時に、人の呻き声。



「殿下。そのまま防御魔法を展開しつづけてください」



女騎士以外の声が届いた。

レイナを陰から護衛している女忍者の声だ。



「遅いよ!」



レイナは粉塵の先にいるであろう女忍者に叫んだ。

もう少し早く助けに来てくれていたら、床も壁もこんなに穴だらけとはならなかったのに。



「……殿下が防御魔法を展開しきってから、私が攻める約束でしたでしょう?」


「……あれ、そうだっけ」


「そうです。勝手に熱くなって動き回られては困ります」


「……えへ、ドンマイってことで」


「……ドンマ? ……とにかく、そこでじっとしていてください」



そう言った女忍者が、魔法使いの暗殺者に迫る。

すでに一撃を与えていたのか、暗殺者の動きが鈍くなっていた。

その隙を逃すことなく、女忍者が剣を振る。



「グ、ガア……アア……」



反撃を試みた暗殺者の右腕が、斬り飛ばされた。

鮮血が粉塵に混じり、滲む。

レイナは恐ろしくなって目を細めたが、女忍者は間を置かず、さらに斬りかかった。


すると、暗殺者の顔が歪んだ。

痛みを感じて歪んだわけではない。

怒りを混ぜた笑みで、歪ませていた。

その笑みを見て、レイナは冷やりとした。



「……ま、待って! 逃げ――」



レイナの声が飛んだ瞬間。

暗殺者の身体から光が溢れた。

防御魔法の光とは違う。禍々しい光だ。

自爆魔法だと気付いた時には、遅かった。


レイナは急いで防御魔法を解き、女忍者の前に魔法の盾を置く。

直後。

殺意に満ちた魔法の衝撃が、女忍者とレイナを襲った。

ふたりは吹き飛ばされ、宙を舞う。


魔法の盾で直撃を免れた女忍者は、吹き飛ばされつつも体勢を立てなおした。

しかしレイナはなにも出来なかった。

吹き飛ばされる自らの身体に、「ああ、死んだな」と短く思った。


徐々に、落下していく。

あまりの急展開に、死の恐怖を感じる余裕はなかった。

目を閉じると、瞼の裏にクレイの姿が映った。


なんだよ、もう。

ここは蒼空の顔が浮かぶべきでしょと、レイナは苦笑いするのだった。

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