暗殺者たち


異様な空気が流れた気がした。

風景すら変わったのではないかと思うほど、淀みを感じる。

それが魔法の力だと気付いた時には、女騎士の表情が険しくなっていた。


前方から、三人。

白奉官に務めているらしい男たちが、レイナの方へ向かってきていた。

見た目は普通の男たちだが、どこか違うとレイナは気付いた。

少なくとも右端の男の手には、殺気のこもった魔力が満ちていた。



「……ねえ、あの人たちで、間違いないよね」



レイナは女騎士に尋ねる。

女騎士が小さく頷き、ドレスの下に隠しているらしい剣に手を当てた。



「閣下を呼びます」


「どうやって?」


「魔法の笛で。閣下にだけ聞こえます」


「間に合う?」


「間に合うよう、お守りします。殿下は魔法で反撃する心づもりを」


「……分かった」



レイナは表情を崩さないように務め、答える。


前方の三人が迫ってきていた。

駈け寄れば十秒で距離を詰められるだろう。

しかしゆっくりと、静かに、不自然なくすれ違うような形で、歩いてきた。


右端の男の手にある魔力には、魔法力の高いレイナしか気付いていないようであった。

刺々しい魔力が、はっきりとレイナに向けられている。

気付いていなければ一瞬で貫かれてしまうだろうなと、レイナは唾を飲み込んだ。


護衛をしてくれている女騎士は、中央と左端の男の殺気だけを感じているらしい。

三人ともに武器を所持しているようではないが、絶対に剣を持っているはずと女騎士が告げた。



「ねえ、笛は鳴らさないの?」


「もう鳴らしました」


「いつの間に??」


「つい先ほどです。……さあ、殿下。お喋りは終わりですよ」



女騎士が、ドレスの下に隠している剣を抜き放った。

五歩の距離まで迫っていた三人の男たちが、目を見開く。

直後。

右端の男が魔法を発現させ、レイナに魔法の槍を向けた。



「……とっくに気付いてるのよ!」



レイナも魔法を使い、魔法の盾で槍を弾く。

雷鳴に似た音が鳴りひびいた。

魔力によって床と壁が引き裂かれる。

周囲にいた、まったく関係のない貴族たちが悲鳴をあげた。



「殿下、お覚悟を」



中央の男と左端の男が、服の下に忍ばせていた剣を抜き放った。

無駄のない動きで、躊躇いなくレイナに向かって剣先を向ける。



「そうはいきません」



女騎士が男たちの剣を弾いた。

鋭い金属音がひびく。

殺意に満ちた冷たい音に、またも周囲にいた貴族たちが悲鳴をあげ、這うように逃げはじめた。



「……貴様、ただの侍女ではなかったか」


「カムハの騎士です」


「なるほど。気付かれていたわけだ」


「そういうことです。退くことをお勧めしますよ」


「出来ぬ相談だ」



暗殺者の目が、鈍く光る。

剣を構え直し、女騎士へ迫った。

迎え撃つ、女騎士。

彼女の剣が、二度、三度と、暗殺者の剣を弾いた。

しかし手練れの暗殺者ふたりを相手に、女騎士は徐々に後退していく。

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