援ける者

ニハの国内で暴れまわる魔物の掃討作戦が始まった。

魔物は北方に多く現われていて、そのほとんどをカムハが撃ち払った。

クレイも戦に加わり、多くの魔物を倒したという。



「……あの人、本当に強いんだ」



報せを受けたレイナは、純粋に驚いた。

ただの小賢しい嫌味男だと思っていたからだ。

まさに文武両道。

ニハの国の英雄と称える人々も現れているという。


しかしやはりと言うべきか。

多くの貴族たちがカムハを妬んだ。

現状のまま私腹を肥やしたい彼らにとって、改革派の貴族の躍進は目障りこの上ないのだ。

しかも王女と婚約し、民からも支持されるとあっては、放置も出来ない。



「そろそろ、なにか動きだすころかな」



レイナは秘かに、自らの手の者を動かした。

それは、国王である父にすら存在を気付かれていない少数精鋭の組織であった。

その組織の人間のことを、レイナは「忍者」と呼んでいた。

格好良い呼び名を思いつかなかったためだ。



「宜しくね、忍者さん」


「このリストの貴族を監視すればいいので?」


「そんなところです」



レイナは頷き、その場でリストを燃やす。

忍者と呼ばれた女が、小さく頷いた。



忍者を使った監視と情報収集とは別に、レイナは白奉官の人材確保にも努めた。

白奉官は形式上王家直下の組織であるため、クレイの手が回しづらいからだ。

レイナはニハの国全域で、身分問わずに有能な人物を求めた。

高難易度の試験を、誰でも、短時間で、簡単に受けられるよう手配した。


高難易度の試験を突破した者に対して、レイナは本試験を受ける権利を与えた。

そうして晴れて本試験を突破した者を、白奉官に配属させた。



「貴族以外の、魔力すらない者を政事に関わらせても良いのでしょうか?」



保守派の貴族のひとりが、訝し気な目でレイナを睨んだ。

レイナは内心苛立ったが、笑顔を保って頷いた。



「白奉官の皆は、優秀な人ばかりですが」


「しかし」


「魔法が使えなくても、それを上回る力が彼らにはあります。心配はいりません」


「ですが」


「王陛下が決めたことです。この国難を乗り切るために」



レイナは食い下がる貴族を追い払うように言った。

実際、国王の許可は得ているからだ。

文句を言われる隙など無い。

それでも保守派の貴族たちは、不満を露わにさせた。



(……あまり突き放しすぎると、良くないかな?)



貴族の間で徐々に広がる不満と、不穏。

レイナは仕方なしと、保守派の貴族と会う機会を増やすようにした。

不満を溜めすぎては、予測できないところで暴発するかもしれない。

ここからは出来る限り、貴族たちの不満を微調整する必要がある。


そうして、半年。

ニハの国は大きく変わった。


身分を問わず有能な人材を抜擢するレイナは、国民の支持を受けるようになった。

形だけの力ない王女ではなくなり、政事への発言権も持てるようになった。

もちろん面倒事も増えた。

しかしそれらのほとんどは、力を増した白奉官が処理するようになった。



「クレイも順調ね」


「おかげさまで」



傾いた陽を背に受け、クレイがにやりと笑った。

相変わらず、自信たっぷりの笑顔。

頼もしいが、引っ叩きたい。


クレイは当初の予定通り、カムハ家の力を急速に引き上げた。

魔物との戦いに多くの兵を投じているのが嘘のように、自領の経済まで発展させた。

そのため、多くの貴族がカムハを妬んだ。

獲得した発言力を武器にして、王家や多くの貴族を動かすようにもなったからである。



「殿下の力もあって、改革派の貴族が力を取り戻しつつあります。実に有難い。さぞ四方八方に良い顔をしているのでしょうね」


「言い方に気を付けて?」


「はは。これは失礼。しかし有難いと思っているのは本当です」


「それはどうも」



レイナは苦笑いして、クレイから視線を逸らす。


レイナは保守派の貴族だけでなく、派閥に属さない貴族とも会うようにしていた。

それらの貴族は皆、力こそ弱いものの、善政を敷いている者ばかりであった。

レイナはそれらの功に報いるよう、白奉官に働きかけた。

その甲斐あって、レイナと改革派を支持する貴族や民は徐々に増えていた。



「じきに保守派が動きだすでしょう」


「とか言いつつ、もう情報を掴んでいるのでしょう?」


「お見通しでしたか。左様です」



クレイの目が、しんと静まった。

予定通りであるはずなのに、深刻そうな表情に変わる。

どうしたのだろうと、レイナは首を傾げた。



傾いた陽が、王城の背へ落ちる。

肌を撫でる温かさが遠のき、冷気が首筋を通り抜けた。

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