這い寄る焦燥
疲労感が、胸を潰す。
なにもかも上手くいかないと、明日すら迎えたくなくなる。
「……ねえ」
レイナはベッドに顔を埋めながら、声を漏らした。
すると傍にいた侍女が、小さく返事をしてレイナへ寄った。
「……蒼空、帰ってきた?」
「いえ、まだお帰りではないようです」
「……どうして蒼空のお母さんは、どこに行ったか教えてくれないの?」
「分かりません。無理に聞き出すことも出来ませんし」
「……もう、あいつ……どこに遊びに行ってんのよ」
レイナは苛立ちを抑えきれず、唸る。
早く蒼空に会わなければ、元の世界へは帰れない。
レイナが弄ったダイヤルを元に戻しても、蒼空が弄ったダイヤルも戻さなくては意味がないのだ。
いや、そもそも、あのダイヤルをもう一度見つけられるだろうか。
苛立ちから、焦燥感へ。
レイナはベッドの上でのたうち回りたかったが、できなかった。
侍女がレイナを起こし、服を着替えさせようとするからだ。
「自分で着替えられるって」
「存じておりますが、放っておけば皴が増えます」
「そうやって宥めようとするんだから」
「お分かりでしたら、もう少し早くお静まりください」
窘めるように侍女が言う。
返す言葉もないレイナは、ぐっと顔を上げた。
視界に、自らの手が映った。
その手の中指には、指輪が填められていた。
あの日、スマホの代わりに手に入れた指輪だ。
指輪が、小さく瞬いた。
このままでいいのかと、問われている気がした。
翌日。
王城がいつもより騒がしくなった。
魔物が活発に動きはじめているという。
「今のところ、大きな被害はありませんが」
レイナに報告してくれた騎士が、暗い表情を見せた。
対処しきれない未来を覗いているかのように。
その様子を見て、レイナは不安になった。
魔物や、ニハの国のことだけではない。
最初に考えたのは、蒼空が無事かどうかということであった。
「……少しは被害が出ているということですよね」
「残念ながら」
「怪我人や……亡くなった方は……?」
「死者が出たという報告は、今のところありません」
騎士がはっきりと答えた。
隠し事をしているようではない。
その言葉に、レイナはほっとした。
「報告ありがとうございます」
「またなにか報せを受ければ、すぐにこちらへ参ります」
「ええ、お願いしますね」
レイナは感謝を伝え、礼をする。
跪いていた騎士が、深く頭を下げた。
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