ジェカン

ジェカンは高い城壁に囲われていた。

門衛も多い。いずれの衛兵も、ギラギラとした目で辺りを睨みつけていた。

魔物を蹴散らして駆けてきたソラ達に対しても、衛兵の厳しい目が和らぐことはなかった。


ジェカンへ入るため、グンバとシェルトラが門衛と話を付けに行った。

入国審査とは別の、特別な手続きをするのだという。

その間、ソラは別の門衛にジェカンの周辺のことを聞いて回った。



「北に行くなら、ミルデトラスを越えなくてはならん」



衛兵が、北を指差して言った。



「ミルデトラス?」


「そうだ。天穿の壁ミルデトラス。遥か昔に、魔物を阻むために築かれた壁だ」


「それって……人間が越えられんの?」


「人が越えられるようでは、魔物が越えるだろう」


「そりゃそうか」


「それ故の難所だ。無論、多くの者にとっては希望の壁だがな」



門衛が誇らしげに言う。

どうやら彼らジェカンの民の先祖が、ミルデトラスを築いたらしい。

ミルデトラスが護るものは、ジェカンだけでない。

他の国々への魔物の侵攻も、ミルデトラスが護っていた。

となれば、誇らしくなっても当然かもしれない。



「それでもなんとかして越えないとな」



ソラは北を見据えて、声をこぼした。

ソラ達の旅の目的を察した衛兵が、少し、申し訳なさそうに目を細めた。



「……武運を祈る」


「サンキュ」



ソラは衛兵に礼を言う。

そこへ、グンバとシェルトラが戻ってきた。

どうやら手続きが済んだらしい。

入国の札も携え、ソラに手を振りつつ寄ってきた。



「今日は休んで、明日になったら北への通行許可を取りに行くわよ」


「おう、サンキュー、シェルトラさん」


「明日からは地獄への旅立ちだ。最後の平和を楽しんでおけい」


「脅さないでくれる? グンバさん」


「はっは。そうら、さっさと宿へ行くぞ」



グンバが笑う。

宿へ向かう途中、グンバとオドが露店で酒を買った。

今飲むのかと問うと、二人は首を横に振った。

「特別な時に飲むのだ」と、二人が笑顔を見せた。


宿に着いてすぐ。

ソラはベッドに倒れ込んだ。

食事をしようという気力もなく、ソラはそのまま眠った。



「まったく、だらしないわね」


「そう言うな。記憶を失っているのに、あれほど戦えたのだ。褒めてやれ」


「仕方ないわね……」



意識が薄れていく中。

シェルトラとグンバの声が、朧気に揺れた。

そのあと、誰かが耳元でなにかを囁いた気がした。

その声は、夢に落ちるソラには聞き取れなかった。

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