ユブラム大陸へ

魔王討伐の旅に出たソラは、まずニハの国を出た。

ニハの国は島国で、西にはユブラムという大陸があった。

地図を見せてもらうと、ニハの国も、ユブラム大陸も、元の世界の地図と大差なかった。



「それで、魔王っていうのはユブラム大陸の北にいるわけだ」



ユブラム大陸に着いてから、ソラは地図を指差しながら尋ねた。

リザードマンのオドが頷き、ユブラム大陸の中部を指す。



「その通り。まず我らが目指すのは、ジェカンですな」


「ジェカン? それって、ここ? ただの街みたいだけど?」


「大きな街ですぞ、ジェカンは。そこで我らは、北への通行許可を得ます」


「許可がいるんだ?」


「いくつかの国境を越えますので。それらすべての許可を、ジェカンで得るのです」



そう言ったリザードマンのオドが、立ち上がり、西を指差した。

指す先に、小さな光が見えた。

はるか先にある、ジェカンの街の灯りであるという。



「だが、ジェカンまでは魔物もいるぞ。辿り着く前にくたばるなよ?」



ドワーフのグンバが片眉を上げて言った。

隣にいたエルフのシェルトラも、揶揄うような笑顔を見せてくる。



「分かってる。それで倒れたら、魔王討伐なんてできないって」


「そういうことよ。記憶喪失だからって、手を抜くんじゃないわよ?」


「厳しいこと言うなあ」


「当り前よ。手を抜いたら、メルには治療させないからね」


「なんだよ、それ。ひどくない?」


「ひどくない。当然よ」



エルフのシェルトラが笑い、神官のメルの肩を掴む。

メルが苦笑いし、「ちゃんと治療しますから」と言ってくれた。

ソラはほっとして、「宜しく頼むよ」とメルに頭を下げた。



グンバが言った通り、ジェカンまでの道のりは険しかった。

立ち塞がる魔物は、いずれも人間よりはるかに大きい。

人の百倍は大きい魔物もいて、それだけは戦うことなく、避けて通った。



「なぜ街は魔物に襲われないんだよ?」



戦闘を繰り返す道中、街の平和を不思議に思ったソラは首を傾げた。

ニハの国でも、魔物が近付いている様子はなかったからだ。



「魔物除けの魔法がかけられているんです」



メルが答えて、ジェカンを指差した。

メルが指差しているものは、街に浮かぶ魔法の灯りであるらしかった。



「あれって、魔物除けなの? イルミネーションだと思った……」


「……イル、ミ? え、えっと、たぶん、そうじゃないです」


「じゃあ、あの魔法を街の外に放てば……魔物がいなくなるってこと?」


「それはちょっと、難しいです。魔法は有限ですし、扱える人も少ないですから」


「そっか……」



ソラはがくりと項垂れる。

世の中は甘くないということか。


メルが言うには、街を守る魔法の灯りは、年々減っているという。

魔法を扱う者が減っているだけでない。

魔物が勢力を増しているからだ。



「誰かが戦わないと、俺たちは衰退していく一方ってわけか」


「そういうことです。ですから、ソラさんが旅をつづけてくれると言ってくれて……私は嬉しかったんですよ」


「そ、そっか。はは。まあ、やれるだけやってみるよ」


「はい」



メルがにこりと笑う。

シェルトラも美少女だが、メルも美少女だなとソラは思った。

勇者一行だから、そうなるように選ばれたのではないかと疑いたくなるほどだ。

それとも無意識に、あのダイヤルで調整してしまっていたのだろうか。



「ニヤニヤしてるんじゃないわよ、変態」



シェルトラの声が空の背中を刺した。

ソラは振り返る。

同時に、シェルトラの拳がソラの肩を撃った。



「街に着くまで気を抜かないでよ」


「分かってるって」



ソラは眉根を寄せ、剣を振るう。

たしかに、メルやダイヤルのことを考えている場合ではない。


眼前に迫る魔物。ソラは剣で斬り伏せる。

さらに次の魔物が駆けてきた。

グンバの大斧が魔物の頭蓋を砕く。

遠くにいる魔物は、シェルトラとオドが撃ち破った。


魔物と戦いながらもジェカンへ駆けられるよう、全員の体力をメルの魔法が維持してくれた。

そうやって無理に走らなければ、一生辿り着けないのではないか。

絶望が脳裏をよぎるほどに、ジェカンまでの道のりはさらに険しくなるのだった。

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