勇者の剣たち

蒼空の旅仲間は、蒼空を含めて五人。


一人目は、蒼空を迎えに来たエルフの少女、シェルトラ。

シェルトラは弓の名手であった。


二人目は、蒼空と同じニハの国の少女、メル。

メルは神官で、癒しの魔法を使うことができた。


三人目は、ドワーフの男戦士、グンバ。

グンバは斧使いで、勇者の蒼空よりも力が強い。


四人目は、リザードマンのオド。

オドは魔法の達人で、魔物の大軍すらも焼き払える魔法力を持っているらしい。


そして五人目は、勇者ソラ。

ソラは五年前に、勇者の力を天から授かった。

ソラはその力を公にせず、秘かに仲間を集めて魔王討伐の旅に出たのだという。



「ソラ。本当に記憶喪失なのか??」



ドワーフのグンバが言った。

蒼空はとりあえず、頷きで答えた。


記憶喪失ではないが、彼らのことを知らないことに違いはない。

彼らだけでなく、勇者ソラのことも、蒼空は知らないのだ。

そのため蒼空は、これまでのことをすべて聞くことにした。

馬鹿だの、阿保だのと、呆れられてもいい。

知らなければ、進むも退くもままならない。



「……こいつはたまげたな。本当にワシらのことを忘れておる。しかしその目は変わっておらんな」


「目? 俺の?」


「そうとも。強者でも、弱者でもない。お前さんらしい目だ」


「それって、褒めてる?」


「はっは! さあて、どうだかな!」



ドワーフのグンバが笑い、蒼空の背を強く叩いた。

戦士らしい、力強い腕。

あまりの衝撃に、蒼空は咳き込んだ。

すると慌てて神官のメルが蒼空の傍へ駆け寄った。



「い、いや、メルさん。だ、大丈夫。怪我したわけじゃないし」


「そ、そうですよね」


「ありがとう、気遣ってくれて。……あと、これから宜しく。迷惑かけないよう、頑張るよ」


「迷惑だなんて」



神官のメルが蒼空の手を取る。

メルは蒼空より年下らしい。

蒼空を必死に励まそうとする手は、とても小さく、幼子のようであった。



「メルはソラに甘いのよ。ホントに迷惑だって言ったほうがいいわ」



エルフのシェルトラが、メルと蒼空を睨むようにして言った。

シェルトラの声に驚いたメルが、ぱっと蒼空の手を離す。



「ソラ。あんた、しっかりしてよね。私たちのところに自分の剣を置いて、行方不明になっちゃったんだから」


「え、俺の剣があるの?」


「あるわよ。そんなことまで忘れたの?」


「いや、はは。面目ない」


「……まったく、もう。……でも、いいわ。見た感じ、弱くなってはいないみたいだしね」



そう言ったシェルトラが、後ろを向いた。

シェルトラの後ろには、リザードマンのオドがいた。

オドの手には剣があった。



「これが、ソラ殿の剣だ。もう忘れてやるでないぞ」



リザードマンのオドが、蒼空に向かって剣を差し出す。

蒼空は剣を受け取ると、鞘から少し、剣を抜いた。

磨かれた刃の煌めきが、蒼空の目を照らした。


見たことも、触ったこともないはずの剣。

なのになぜか、手と目に、剣が馴染む。



「……俺の剣。勇者の、剣か」



蒼空はぐっと唇を結んだ。

剣を鞘に納め、剣帯に取り付ける。


剣の重み。腰にかかった。

やはりしっくりと馴染むなと、蒼空は思った。

そう思うほどに、「勇者になった」という気分が蒼空の胸の内を満たした。

ゲームの主人公になったんだと、胸が高鳴っていく。



「……迷惑かけるかもしれないけど、俺は旅を始めたい。……いや、つづけたいって言うべきなのかな」



蒼空は四人の顔を見ながら言った。

すると四人が同時に頷いた。



「辞めたいって言われたら困るのよね」



シェルトラが苦笑いした。

他の三人も同意見といったところらしい。

ドワーフのグンバとリザードマンのオドは、蒼空の背をどんと叩き、喝を入れてくれた。


メルだけは、どこか少し、蒼空の心身を案じているようであった。

その仕草が妙に男心をくすぐると、蒼空は思った。



「メルさん、俺、頑張るつもりだけど、怪我しちゃったら頼むよ」


「も、もちろんです」


「へへ。なんかやる気出てきたぜ」



ソラはにかりと笑う。

その様子を見ていたシェルトラが、ソラの背中を思いきり蹴飛ばすのだった。

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