母
蒼空の家は、街の端にあるらしかった。
街の中央に比べ、街の端の灯りはどこか弱々しい。
それでも、寂れているというほどではなく、人通りも多いことに蒼空は安堵した。
「……ここか」
辿り着いた、蒼空の家。
武具商店らしく、様々な剣や斧、甲冑が並んでいた。
「おや、旅から帰ったのかい?」
店の奥から、声がした。
それは母の声であった。
姿を見せた母は、元の世界の母と比べて大きな変化はなかった。
強いて言えば、どことなく外国人っぽく見える。
「……帰ったけど……旅って?」
「お友達と旅に出ていたじゃないか。どこに行くかは、聞いてなかったけどねえ」
「そ、そう。……えっと、うん、ちょっと帰ってきたんだ」
「そうかい。じゃあ少なくとも、今夜は泊っていくだろう?」
「……うん、そうするよ」
蒼空は頷き、母と共に店の奥へ入る。
店の奥の部屋は、静かなものであった。
元の世界でも、そうであった。
蒼空の家族は、母と蒼空のみ。
昼も夜も働く母と、のんびり過ごしたことはない。
(……この世界で、夜まで仕事してないんだな)
蒼空は少し安堵した。
今の母も決して楽ではないだろうが、元の世界よりはマシに見える。
疲れた表情もしてはいない。
その夜。
蒼空は久しぶりに、母とゆっくり過ごした。
こんな時間が得られるなら、元の世界に戻らなくてもいいのではないかと、蒼空は思った。
しかしその想いは、翌日打ち砕かれた。
「捜したのよ! ソラ!」
昼。母の店の手伝いをしていた頃。
突然、ひとりの少女が店の中に入ってきた。
「え、へ? ええ??」
蒼空は詰め寄ってくる少女に驚き、後退る。
無理もない。
女性は、エルフであった。
しかも非の打ち所なしの美少女だ。
「突然いなくなって! どうしてここにいるの!?」
後退る蒼空を訝しみ、エルフの女性がさらに近寄ってきた。
エルフの少女の顔。額が付くほどに寄せてくる。
「へ? えっと、な、なに??」
「なに?? じゃなくて! ……あれ、あんた、ホントにソラ? だよね??」
「蒼空ですが? あなたは??」
「はあ!? 私の名前、忘れたの!?」
さらに詰め寄ってきた少女が声を荒げた。
どうやら少女は、この世界での知り合いであるらしい。
蒼空は邪険にすることもできないと思い、少女を家に招いた。
話を聞いたところ、少女は蒼空と共に旅をしていたらしかった。
旅をしていた仲間は少女だけでなく、他に三人いるという。
皆、行方不明になった蒼空を捜していると少女が言った。
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