勇者ソラ

魔物を撃つ拳

玲菜と別れてすぐ。

蒼空は奇妙な気配を感じた。

その気配は、玲菜の後を追っているようであった。



「……なんだよ、あれ?」



玲菜を追う気配に目を送り、蒼空は動転した。

それは人間でも、動物でもなかった。

明らかに異形な、邪悪な存在であった。

蒼空は直感的に、それが「魔物」だと分かった。



「……くっそ、やるしかねえよな」



このままでは玲菜が魔物に襲われる。

助けられるのは自分だけだ。

そう思った瞬間、蒼空は駆けだしていた。

拳を握り締め、魔物に迫る。


なぜか。

勝てる気がした。

自分の身体よりはるかに大きい存在なのに、負ける気がしない。


蒼空の拳が中るほど間合いを詰める。

そこでようやく、魔物が蒼空の存在に気付いた。

魔物に身構えさせる隙は与えなかった。


蒼空の拳が、魔物の頭部らしき部位に中る。

確かな手応えが、拳に感じられた。

蒼空はつづけて拳を数度打ちこんだ。



「……ヒュ、ガ……」



魔物の身体から、力が抜け落ちる。

蒼空は止めの一撃を与え、魔物を地に伏せさせた。

すると魔物の身体が黒くなり、灰となって消えた。



「や、やったか」



蒼空はほっと息を吐く。

灰となって消えた魔物から、遠くにいる玲菜へ目を向けた。

玲菜は魔物に気付くことなく、街へ向かっていた。



「他に妙な気配はないな。たぶん、これで大丈夫だろ」



自らの拳を見つつ、蒼空は辺りを警戒する。

先ほどの魔物のような独特の気配を発する存在は、どこにもなかった。

もしかすると、先ほど倒された魔物を見て鳴りを潜めたのかもしれない。

それならばよしと、蒼空も自らの家を再び目指して歩きだした。

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