変わるもの、変わらないもの
食堂には、父と母、そして兄がいた。
兄もまた外見が変わっていた。
元の世界ではぱっとしない兄であったが、今は違う。
どことなく格好良く、堂々としているように見えた。
「お、遅くなりました」
玲菜は努めて物静かに喋った。
王女らしい喋り方など、分からない。
ならばお淑やかにする他ない。
「遅くはないよ、レイナ。さあ、食事にしよう」
父が笑顔で玲菜を迎えた。
母も大玄関で会ったときとは違い、優しい表情となっていた。
玲菜はほっとして、食卓に着いた。
運ばれてくる料理は、これまで食べたことのないものばかりであった。
テーブルマナーさえなければもっと美味しく感じれるのにと、玲菜は思った。
加えて、スマートフォンも欲しかった。
これほど映える料理。元の世界に戻ったら二度とお目にかかれない。
(勿体ないなあ……)
食事中も、食後も、消えたスマートフォンが脳裏を巡った。
いったいどこへ消えたのだろうか。
スマートフォンの代わりのようにして見つかった指輪を見て、玲菜は首を傾げる。
まさかこれがスマートフォン? いやいや、そんな馬鹿な――
「ところで、レイナ」
思い悩む玲菜へ、兄の声が飛んできた。
玲菜は肩をびくりと跳ねさせ、そっと兄のほうへ顔を向けた。
「な、なんでしょう……?」
「その服は、どうしたんだ? 街で買ったのかい?」
「……え?」
「お忍びで街へ出るには、もっと目立たない服があったろうに」
兄が玲菜の制服をじっと見る。
玲菜は自らの服を見て、しばらく間を置き、「ああ」と小さくこぼした。
どうやらこの世界には、学校がないらしい。
とすれば、学校の制服もない。
中世ヨーロッパのようなこの世界では、学校の服は異様なのだ。
そういえば街を歩いていたときも、多くの視線を集めていたような気がする。
「……あ、えーっと、珍しい服を売っているお店で、買いまして……」
玲菜は適当な嘘を付いた。
どこの店だと追及されないことを祈りながら。
「……そうか。まあいい。変わった服だが、似合ってはいる」
「そ、そうですか」
「ああ」
兄が真顔で頷いた。
自分の兄とは思えないと、玲菜は訝しんだ。
元の世界の兄は、玲菜に無関心であったからだ。
(もしかして別人?)
玲菜は兄をじっと見た。
しかしやはり、父母と同じく、滲み出る雰囲気が自らの兄だと知らしめていた。
これほど格好良い兄ならば、友達に自慢したいなと玲菜は思うのだった。
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