国王の父、王后の母

多くの者に予想されていた通り。

玲菜の父は、玲菜を叱らなかった。

ただただ、玲菜が無事に帰ってきたことを喜んでくれた。


対して、玲菜の母は烈火のごとく怒った。

街の外がいかに危険か、一から十まで説明する勢いで捲し立ててきた。

玲菜が予想した通り、王后となった母の性格はさらに厳格なものとなっていた。

しかし今回は、父と、老執事が間に立ってくれた。

そのおかげで、玲菜はなんとか自室へ逃げ込むことができた。



「わっはー。やっぱりお父さんとお母さんだったなあ」



自室に入るや、玲菜はベッドに飛び込んだ。

柔らかなベッドが、疲労困憊の玲菜を沈めていく。


変化した世界の父と母は、玲菜と同じく外見が変化していた。

ところが滲み出る雰囲気は、元の父母と同じであった。

厳しい母も、ただ厳しいだけではない。

先ほどの怒りも、街の外では魔物に襲われる可能性があるからこそだ。

叱りつける母の目には、愛ある色が宿っていた。



「お食事は如何なさいますか?」



自室の外で、使用人の声が鳴った。

玲菜はもぞもぞと顔を上げ、時計を探す。



「あ……時計、ないのか。めんどくさいなあ、もう。……はーい! 食べますよー!」


「承りました。すぐにご用意いたしますので、少し休まれたらお越しください」


「はいはーい」



玲菜は適当に返事をする。

わずかな間を置いて、使用人が玲菜の部屋の前から去っていった。

どうやら玲菜の言動に違和感を覚えているらしい。

とはいえ、どうしようもない。

王女なんて経験したこともないのだから。



「でも、とりあえず言葉遣いくらいはなんとかしようかな」



そうしなければ、また母が怒るかもしれない。

とにかく明日の昼まで、再びダイヤルを弄るまでは、演技をしよう。

玲菜は心の内で頷き、食堂へ向かった。


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