第24話 強敵

 運命を捻じ曲げる能力――あの侵入者を殺した時から、僕はこの能力について考えていた。

そもそも、能力を強化する薬を飲んで何故、元の能力と全く違うような能力になったのか。

それは未だに分からないが、この能力の特性については少しだが理解してきた。

運命を捻じ曲げるとはその名の通り能力を使った相手の運命を捻じ曲げるということだ。

例えば、自分に向かって飛んでくる弾丸があるとする。

当然だが、避けなければその弾丸は自らを貫くだろう。

つまり、弾丸は自分に当たるという運命にあると言える。

僕のこの能力はそれを捻じ曲げるのだ。

避けなくともその弾丸は軌道をそらす。

それは、弾丸の運命が自分に当たる運命から捻じ曲げられたからである。

なんともややこしい能力だがそれなりに応用が効くため、最強格の能力だ。

しかし、それ相応にデメリットもある。

最強故に能力のコントロールが難しく、関係ない物体の運命までも捻じ曲げてしまうのだ。

確かあの時は周囲に散乱したガラス片の運命を曲げてしまったんだよな……

そのため、適当な方向に飛散し、大怪我を負った。

そのような思考をしていると、不意に避けなければという衝動に駆られる。

僕はそれに従い、飛来してきていたその奇妙な形をした弾丸を躱そうとした。

しかし、躱しきれず、能力を発動すらしていなかった僕の頬をそれが掠る。

頬に痛みが走り、血の生臭さが鼻腔をくすぐった。

僕の意識は自然と戦場に引き戻された。

まずいな……薬の副作用か何かは知らないが判断力が鈍っている気がする。

つい先程まで、僕は少なくとも今するべきではない思考を重ねていた。

気を引き締めていかなければどれだけ強かろうと殺られる。

僕は大きく息を吐くと冷静に状況を分析する。


「皐月?! 大丈夫か?!」


謎の男と戦っている先生が僕にそう心配の言葉を掛ける。


「大丈夫だ! 今から援護する!」


僕は頬から垂れる血を手で拭い、そう返すと、道端に落ちていた破片を広い、運命を捻じ曲げて音速で飛ばす。

それは男にホーミングするように飛んでいくが、いとも容易くそれはそいつの銃で打ち砕かれた。

凄まじい程の動体視力、そいつが相当な強者であるということは簡単に理解できる。


「援護か……つまり先に狙うべきはお前か!」


男は照準を先生から僕に合わせる。

僕は何発も飛んできた弾丸を能力を使用し、全て軌道をそらす。

弾丸は全てあらぬ方向へ飛んでいった。


「当たらないのか……チッ、面倒だな」


男は先生が放った物凄い勢いの蹴りを寸前で防御する。

そして、その後に畳み掛けるように投擲された心真のナイフを躱す。


「三対一か、分が悪いな……いや、かえって好都合か?」


男はいきなり銃を投げ捨てた。


「舐めてんのか!?」


先生は、その隙を見逃さず、間髪入れずに強烈な蹴りを放つ。

男はもろにそれを喰らい、吹っ飛ぶ。

僕には男の行動が全く理解できなかった。


「やっぱりイテェもんは痛いな……」


男は、余裕そうな笑みを浮かべながらフラフラと立ち上がる。

見た感じ、そこまでのダメージはなかったようだ。


「嘘だろ……? 渾身の蹴りが……」


対して、先生は余裕なさそうに呟く。


「先生、危ない!」


刹那の出来事だった。

何かを読んだのか心真がそう叫んだと思ったら何かが先生の腹部を貫いていた。

先生は、すぐにそこを押さえる。

血がドクドクと流れ出し、止まる気配を見せない。


「まずは一人……」


「透明な弾丸だ……透明な弾丸が先生を貫いた。銃を捨てた時には既に撃っていたんだ! 銃を捨てたのは油断させるためのフェイクだった!」


男から全てを読んだ心真が叫ぶように言う。

僕はそれを聞くとすぐさま周囲に警戒をした。

男が何発撃ったのか分からない限りそうするしかない。

透明な弾丸に能力を使用できる自信は僕にはなかった。


「当たりだな。まぁ俺の攻撃を避けながら見えない弾も避けるなんて無理だろうな。つまり、俺の勝ちだッ!」


男は突然、僕の間合いに入り込んできて、一度に何発もの攻撃を放つ。

僕は能力を使用し、それを全てそらす。


「やはり、お前だけは俺が仕留めなくては……」


男は懐からもう一丁の銃を取り出し、ゼロ距離で突きつける。

僕の能力はゼロ距離で放たれる弾丸にも効果があるだろうか……

多分無理だと直感が言う。

背筋を嫌な汗が伝っていく。

男は引き金に手を掛けた。


「こんな任務で危機的状況になるなんてやっぱり新入生だわ……」


横からいきなり現れた彼方が男を蹴り飛ばす。

予想外だったのか男は吐血をする。

緊張から開放され、一時の安堵が訪れたが、すぐにそれは過ぎ去った。

彼方の腕を透明な弾丸が貫通する。

痛みに慣れていないのか彼女は力なく倒れ、気絶した。

誰がどうみても絶体絶命的状況、ゆっくり進む時間の中、僕はこの後どうするべきか思考する。

やがて、一つの案に辿り着く。

もうこうするしか方法が残されていないと言っても全く過言ではない。

僕は意識を集中させ、能力をフルで使用した。

範囲をアジト全体が入るようにし、捻じ曲げる対象を器用にコントロールする。

体中に恐ろしい程の負担がかかった。


「何をしている!!」


男は僕の行動を怪しく思い、発砲する。

弾丸が体に着弾するが関係ない。

そして、僕は能力を発動させ、廃工場内にある全てのミニキューブの運命を捻じ曲げた。

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その日、僕は君に叶わない恋をした―― 杜鵑花 @tokenka

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