第21話 任務

 チャイムが鳴り、暫くすると、少し慌てた様子で又谷先生が入ってきた。

自分より立場が上の人が慌てているというのは穏やかではない。

室内には微量の緊張感が含まれ始めていた。

まったく……普通の授業は受けれないのだろうか……

脳内でそう嘆く。

振り返ってみれば、この学園に来てからまともに授業を受けていないかも知れない。

僕は学園に通う本来の目的を忘れかけていた。


「至急、体育館に行け。至急だ」


言い終わると、先生はすぐに教室を出た。

それと同時に、生徒たちも席を立ち、一斉に動き出す。

集団心理の所為か僕も教室の外に出る。

僕は体育館の場所をまだ知らないため、生徒たちに付いていくことにした。


 やがて、僕たちはその場所まで辿り着いていた。

政府が創った学園の体育館と言っても普通の体育館より一回り大きい程度で、内装は何も変わりない。

天井にバスケットボールが引っ掛かっているのも加えて……


「さて、1年1組の皆さんに集まってもらったのには勿論理由があります」


不意に、そんな声が響いた。

体育館の広さ故の反響と残響によりいつもの何倍も大きく聞こえる。

その声を発した人物は緑髪の学園長だった。


「まぁ、新しくクラスに入った人以外は薄々勘づいていると思いますが、あなたたちにはこれからとある任務に向かってもらいます」


「任務……?」


この学園に来て恐らく初めて聞いたであろう単語に僕は小さく首を傾げる。

それを見たのか隣に居た心真が小声で説明してくれた。


「各学年の最高クラスには極々稀に任務つかされるんだ。しかし、全員を集めるほどの任務は久しぶりだな……」


「そうなんですか……でも、それほどの任務なら何で他学年がいないのでしょう……」


「それは……全校の中で1年1組が最強クラスだからだ」


自意識過剰……ではなく事実なんだろう。

それを思わせるほどの雰囲気をみんなが纏っている。

思考を終えると、学園長の説明が続いた。


「その任務とは、反社会的勢力の一つのアジトを壊滅させるというものです。敵は相当の手練れです。くれぐれも油断はしないように挑んでください。又谷先生に引率してもらいますが、クラス一丸となって頑張ってください。では、後は又谷先生の指示に従って動いてもらって構いません」


学園長はその長い台詞を全て言い終えると、まるで霧のように何処かに消えていった。

そして、必然的に生徒の視線は先生の方を向く。


「学園長から場所は聞いている。まずは田代先生のところまで行くか」


先生は、みんなを引き連れ歩き出す。

何故そんなところに行くのか僕には分からなかったが付いていく以外の選択肢はなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「それで、俺のところに来たと……いや、別にそれは正しい判断だと思いますが、俺は窮屈が嫌いなんです。少し寄ってくれませんか?」


研究室の中、僅かだが棘のある言葉を投げたのはいつも通り、白衣を着た田代先生だった。


「あぁ……済まない。そこまで考えが至らなかった」


僕は珍しく先生が従順なことに驚きながらもその狭い研究室の端に寄る。

これで少しはスペースを確保できた筈だ。


「俺は戦うとかはできないが援助することはできます。敵のアジトまでテレポートする機械を引っ張り出してきましょう。又谷先生はこれが狙いだったんでしょう?」


「あぁ、ありそうだなと思っていたからな……実際にあって少し安堵したよ」


冗談交じりのやり取りをしながらも、田代先生は研究室の奥の方から、埃を被ったキューブのような形をした妙な機械を出してきた。

僕はそのあまりの埃っぽさに思わずくしゃみをしてしまう。

それを見るだけで長年の間使われていないことが分かった。


「はい。これがそれです。今、電源を入れますね……」


それが、研究室の黒い机にドンと置かれる。

そして、田代先生がスイッチを入れると、それは奇妙に淡く光り始めた。


「良かった。まだ動きます。それで又谷先生、行き先をこれに入力してくれますか?」


田代先生はホッと息を吐くと、又谷先生に機械のリモコンのようなものを手渡す。

先生がそれを受け取り、難しそうに何かを入力をしている間、僕たち生徒は、その機械に釘付けになっていた。


「……よしっ! これで完璧な筈だ」


暫くして、先生は自信いっぱいにそう言い、田代先生にリモコンを返す。

田代先生は微笑みながらそれを受け取ると、確認を始めた。


「……うん。問題ないです。後はこのキューブに触るだけでテレポートします。気を付けてほしい点は、テレポートした場所に小さいキューブが出現するのでそれを全員忘れずに必ず取るという点です。そのミニキューブを砕けばここに戻ってこれます。では、健闘を祈ります」


「準備はいいな? 行くぞ!」


先生がそう言ってキューブに吸い込まれていった。

そのことを皮切りに、僕たちは順番にキューブに触っていった。

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