第19話 授業?
僕たちが一緒に教室に入ると、一気に教室内が静かになった。
まぁ当然のことだろう。
休み時間にいきなり居なくなったかと思えば授業中まで帰って来ず、挙句の果てには忘れ去られそうになっていた僕が、クラスメイトと共に帰ってきたのだから。
僕はその静寂を気にもせずに堂々と自らの席まで戻る。
「訳が分からないわ。何で貴方が夜見田さんを連れて帰って来たの?」
疑問に耐えきれなくなったのか、一人の女の生徒がそう僕に問いかける。
別に授業を途中までサボっていたことを問い詰められたわけではないことに、僕は少し胸を撫で下ろす。
それを聞かれていたら多少面倒だっただろう。
僕は答えようとしたが、心真がそれよりも先に口を開いた。
「いや、たまたま来るタイミングが揃っただけだ。僕がいつも遅刻してくるのは知っているだろう? それよりも、何で先生が居ないんだ?」
心真ができるやつでよかった。
僕がクラスメイトからの信頼を失わないように――怪しまれないように――バレない程度の嘘をつき、話をスムーズに切り替えてくれた。
僕にはできないであろう高等テクニックだった。
僕は心中で心真に感謝をする。
「先生? もう帰ったんじゃないの? 反抗的な態度をとったらすぐにどっかに行ったし……」
彼女は、その言葉を言い切らなかった。
「噂をすれば何とやらってやつか……」
ガラガラと音がし、教室前方の扉が開く。
教室内の全員の視線が一気にその方向に注がれる。
そこから入ってきたのは、このクラスには合わないジャージを着た白髪の――又谷先生だった。
「おいおい、どういう状況だ? これは……」
先生は、軽く溜め息を吐くとやれやれといった仕草をし、教卓の後ろに立つ。
「まぁ、取り敢えず座れ」
先生がそう言うと、席を立っていた両者――心真ともう一人――が従順に座る。
「さて、静かになったことだし、授業を始めるかな……」
先生は教室を軽く一巡すると、チョークを手に取り何もなかったかのように平然とそんなことを言う。
そんな先生の行為が気に入らなかったのか、彼女がまた口を開いた。
「こんな
「いや、断言しよう。俺は決して巫山戯てはいない。授業に遅れたのは教科別に先生がいると思っていたからだ……1年1組は担任だけで全教科を教えるなんて初めて知った」
「はぁ? そんなの巫山戯ているとしか言いようがないじゃない」
「
見かねた心真が席を立ち、止めに入った。
どうやら、彼女の名前は彼方というらしい。
緊張感が徐々に高まりつつあったが、心真のお陰で、それは一時的に止まった。
「何で? この先生は弱いのよ? 何で私が止められるの?」
彼女の、一文一句に僕の中で苛立ちが募る。
彼女は、人を苛立たせるのが得意のようだ。
見てみると、先生ももう大分はち切れそうである。
しかし、心真はなだめるように冷静な口調で続けた。
「彼方はあの先生と戦ったことがあるのか? 自分が先生は弱いと思い込んでいるだけじゃないのか? もしそれでも続けたいというのなら僕は止めることはしない。ただ、強者のような判断力があるのならやることは決まっている」
暫く、沈黙が続いた。
彼女は、心真のその言葉を頭の中で
「……分かったわ。取り敢えずはおとなしくする」
沈黙の後、彼女がそう言うと、さっきまでの緊張感は一気になくなり僕は安堵の息を吐いた。
「じゃあ、気を取り直して、授業を始めるか……」
先生がそう発した瞬間、無情にも授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「ありゃ……結局授業はできないのか……まぁいいや。次はまともにできそうだしな。じゃあ休み時間にしていいぞ」
先生はそう言うと、また教室を出て行った。
今度は特に用事もないので追いかけない。
それに先生は多分、職員室に向かっただろうからな。
最後にチラッと見えた気怠そうな表情から、僕はそう憶測を立てこの思考に終止符を打つ。
それより……
僕は騒がしくなった教室を見渡す。
その中で、一人だけ何もせずにただ無表情で座っている人物を見つけると、僕は席を立ちその人物の元へ向かう。
「遅刻してきたって言ってましたけど朝は居なかったんですか?」
友達という関係になっているため、声はかけやすかった。
「ああ。僕はいつも遅刻する」
「じゃあ、何故さっきはあの曲がり角のところにいたんですか? ここに来るまでにあそこを通ることはないと思いますが……」
さりげないことから訊き、次にさっき訊きそびれた一番気になっていたことを訊く。
「……教室に向かっている途中で君を見かけてな……見ない顔だから気になってつけてたんだ」
「そうだったんですね……ところで、夜見田さんは何で無表情なんですか?」
流れで、二番目に気になっていたことを訊いた。
もしかすると地雷になり得る質問かも知れないが口に出してしまってからではもう遅い。
僕は回答を待つことにした。
「……無表情? そうか……気になるか……大抵の人はそんなことを訊いてくることはないのだが……それと、あまり聞いていて楽しい話でもないから自分でも話したくないが……気になるなら話してやろう……」
僕は軽い気持ちで訊いてしまったことを後悔し始めていた。
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