第17話 1年1組
重い足取りで1年1組に向かう道中、僕は見知らぬ生徒に声を掛けられた。
雰囲気からこいつが強者であるということが分かる。
「ねぇ、君……道を間違えてないかな……こっちは僕たちのクラス、1年1組への道だよ?」
新しくクラスメイトになる僕に対する煽りなのか、それとも本当に心配しているのかはかりかねるが、僕は前者として捉えた。
早耶香が実力がない人間は蔑まれると言っていたのを思い出したからだ。
当然のことだが、僕はまだ受け入れられていないということだろう。
「僕もこれから1年1組に入るんだが……」
苛立ちを隠しながら、冷静にそう返す。
こういう奴は相手にしないのが一番だが、クラスメイトになってしまう以上、まずは友好関係を築いていかないといけない。
噂によると、1年1組は優秀な人材が少ないため生徒の人数が少ないらしい。
だとしたら、尚更それを大事にしないといけないだろう。
「あっそう。どれくらい生きていけるか楽しみにしておくよ」
そいつは、そう言い終わると、教室の方へ歩いて行った。
あの発言からして、殺し合いでも行われているのだろうか……
「物騒だな……」
そう呟くと、僕も教室へ向かった。
1年1組の教室内の雰囲気は、1年4組の雰囲気とは全くの別物で、明るかった。
互いに、強者特有のレベルの高い会話を交わしている。
会話の内容が聞こえて来るが僕には到底理解できるようなものではなかった。
誰も新しく入った僕には見向きもせず、何も変わらない日常といった感じがする。
さっきの奴は話しかけてくれただけまだマシだったのかも知れない。
僕がそんなことを考えていると、いきなり教室の扉が開き、驚きの人物が入ってきた。
「えー、どうも……今日から1年1組の担任になった。又谷だ。よろしく」
思いも寄らない出来事に、一瞬フリーズする。
何でここに来たんだ……
様々な疑問が頭の中を飛び交うがそんなことは後で本人に聞けば分かる。
取り敢えず、僕はホームルームが終わるまで様子を窺うことにした。
「あれ?
教室の前の方に座っていた一人の生徒が先生にそう尋ねる。
逆月先生とは前にここの担任をしていた人だろう。
「ちょっと、こっちの事情でな……」
「えー……先生に私たちのクラスが務まるの? 1年4組の担任だったんでしょ? 弱いんじゃない?」
さっきの生徒が、嘲るようにそう言うと、他の生徒もそれに同調する。
強者であるがための慢心が生んだものだった。
「あぁ、そうだ。俺は弱いよ。だが、任されたらやるしかないんだ」
「私たちは弱い先生になんて絶対に従わないわ」
プライドが高いのか、そう言うとホームルームが終わってないにも関わらず、周囲の生徒たちと会話をし始めた。
それを見た先生は、軽く舌打ちをすると、さっさと教室から出て行った。
何処に行ったのかは大体分かっている。
僕は先生の後を追った。
◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆
「はぁー……チッ、まったく、やってられないぜ……」
そんな愚痴が、タバコの煙と一緒に風に流される。
「やっぱりここか……」
先生は、やはりと言うべきか屋上に居た。
「皐月か……よく俺の居場所が分かったな。別にぴったり後を付けていたわけじゃないだろう?」
「嫌なこと、面倒臭いことがあったらすぐにここに来るからな……誰だって分かるさ」
「それと、どうしょうもなくタバコを吸いたい時もだな……」
「先生……聞きたいことが山ほどある」
僕は雑談を続けている場合ではないと思い無理矢理、話を切り出す。
こうでもしないと日が暮れてしまう。
「あぁ、何となく察しはつく。昨日の夜から現在に至るまでを短く纏めて説明しよう」
先生はタバコを投げ捨てると、フェンスに掛けていた手を離し、僕の方に向き直る。
そして、大きく息を吸うと、話し始めた。
「昨日の夜、学園長に呼び出されてお前に詳しい情報を言ってなかったから処罰された。で、その処罰の内容が1年1組の担任をしろとのことだったってわけだ」
「1年1組は問題児のクラスだから怠くてホームルームも嘘を付いたりして適当に終わらせたのか……」
「嘘を付いたのは今後を考えてだ。それと、もしあの時、自分が強いなんてことを言っていたら証明のために戦い合った可能性がある。俺たちには、大きな目標があるだろう? それを達成するには少しでも目立たないような行動をしないといけないからな」
「それについてはもう手遅れかも知れないがな……まぁでもしたほうがいいか……」
「これで、聞きたいことはなくなったか?」
「いや、あと一つだけいいか?」
「どうぞ? 時間はある」
「僕たちの大きな目標に向かって次に僕は何をすればいい?」
「そうだな……信頼を得るのがいいんじゃないか?」
「そうか……まぁこれで終わりだ。僕は先に教室に戻るが先生も早めに戻って来いよ」
僕はそう言い残すと、屋上を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます