第15話 風呂上がり
「あー、やっぱりこれだよなー」
シャワーを浴び、一通り体を洗った僕は、ゆっくりと湯船に浸かった。
泳げる程の広さがあるこの浴槽だが勿論僕はわざわざリラックス空間を潰すような真似はしない。
「取り敢えず、屋内で体を温めてから露天風呂に行くとしよう」
時間に限りが付けられているわけではないのだ。
思う存分楽しむのがいいだろう。
まぁ流石にのぼせたら出るが……
僕は浴槽の淵にもたれかかり、天井を見上げる。
しかし、広すぎて換気扇が機能していないのか、濃い湯気の所為で見通すことができない。
「まるで、雲の上に居るようだな……」
力を抜き、リラックスしていると急に、脳内に幻想的な景観が映る。
そこは、吸い込まれてしまいそうになるほどに綺麗な場所だった――
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謎の浮遊感を覚え、僕は目を覚ました。
それと同時に、僕の体が沈んだ。
驚いて、お湯を思いっ切り飲んでしまった。
「ゲホッ、ゴホッ!」
僕は、むせながらも、漂っていた体を起こす。
そして、一度深く呼吸をすると、僕は落ち着きを取り戻した。
「寝ていたのか……」
一体、どれくらい眠っていたのだろうか……
疑問が湧いてくるが取り敢えず露天風呂は諦めて風呂を出るのがいいだろう。
露天風呂は惜しいがもうのぼせてきたしな……
僕はそこまで思考すると、浴室の出入り口まで滑らないよう慎重に歩き出した。
浴室を出ると、急激な気温の変化故か立ち眩みのような目眩に襲われる。
僕は倒れそうになりながらも脱衣所で服を着て外に出た。
暫くして、大分症状は収まってきたが未だに少し視界が歪んでいる。
千鳥足で家の中を進んでいると、不意に足が床をすり抜け、落下した。
ドンッという音と共に、背中に激痛が走る。
しかし、さほど高さがなかったためか、動ける程度には無事だった。
「いてててて……何だよ……もう」
気付くと、目眩は完全に収まり、脳は正常に動き始めていた。
「落とし穴があるなんてとんだトリックハウスだな……というか……何処だ? ここ……」
辺りは薄暗く、少し埃っぽかった。
手入れが行き届いてない。
そんな印象を受ける。
「図書室?」
目が暗闇に慣れてくると、本棚が立ち並んでいることに気付いた。
そのうちの一つの本を無造作に手に取る。
『終わりの木とは』というタイトルの本だったので、僕は気になってそれのページをめくった。
「手書きの本だな……かなり古い……読めないところがある」
僕はかかっていた埃を払い、文字を読む。
幸いにも、現代語で書かれているので読むのは容易だった。
「我が如月家が代々守ってきた終わりの木と呼ばれる大木。何故守られているのか……それについて私、如月家七代目が調べた。まず、家の資料で分かったことを書く。一つ目、世界が終わる時、終わりの木に何かが起こるということ。二つ目、如月家は独自の能力を使い、終わりの木を守るという使命があるということ………………これ以上は読めそうにないな」
僕は本を閉じ、元の場所に戻した。
とても興味深い内容だったが現在の優先順位を考えるべきだろう。
ここからの脱出を第一に考えなければ命を落とす可能性があるかも知れない。
僕が歩き出そうとした刹那、彼女の声が鳴り響いた。
「おい、誰か居るのか?」
懐中電灯の光の柱が、見える。
助かった、僕はそう思うとそこまで歩き始めた。
「居るぞ!」
そう声を上げると、光の柱が僕の顔に当てられた。
「皐月? 何故こんなところに居るんだ?!」
「事情を話すからちょっと待ってくれ……」
僕は歩くスピードを速め、図書室から出た。
同時に、その扉が閉められる。
「この部屋には立入禁止と書いてあったんだが……事情とやらを聞かせてもらおうか……」
彼女の顔を見ると、怒っているのが嫌と言うほど伝わってきた。
僕は恐る恐る口を開き、先程のことを赤裸々に言う。
「……ふーん、そんなことが……いや、信じてないわけじゃない。この家は特殊だからな……少し、隔てが弱まっているのかも知れない」
「隔て?」
気になった語句が出てきたため、それをそのまま彼女に返す。
「そう隔てだ。実はこの家は私の父さんと母さんの能力を合わせて作られたらしい、広いのはそのためなんだが……父さんは私が産まれてすぐに出ていったし母さんは病気で死んじゃったから、もう大分能力の効果が切れてるのかもな……」
「辛い過去を持ってたんだな……」
「ま、今は平気だがな……さ、事情は分かったし、今日はさっさと寝ろ。明日も速いからな……」
彼女はそう言って、僕の目の前で指パッチンをした。
すると、僕の体はいつの間にかベットの中に居て、そのまま眠りについてしまった。
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