第13話 学園長の話

 「この扉か?」


不気味な階段を上った先に待っていたのはやはりと言うべきか不気味な扉だった。

両開きの大きな扉で、所々に苔が生えている。

とても学園長室の扉とは思えない見た目だが、ここまでの厳重な設備を見る限りそうなんだろう。


「開ける……しかないよな……」


僕は覚悟を決め、恐る恐るその扉を開けた。


「やぁ、良くきたね」


瞬間、鳴り響いたのは何処か聞き覚えのある声だった。

それに驚き、僕は反射的に声がした方向を見る。

目に入ったのは透き通った緑色の髪をした人物。

大きな椅子に如何にもな感じで座っているそいつを僕は知っていた。


「お、お前はッ?! あの時の緑髪じゃないか!!」


「あの時の? どういう意味? 俺と君は初対面だ」


「いや、何でもない……ところで、学園長……どういう用だ?」


この男は僕のことを視認していなかったのだろう。

僕は高速で結論を導き出すとすぐに話を切り替えた。


「不思議な奴だな……まぁでも良かった。俺が学園長だと知らないんじゃないかと思ってたんだ。普通は学園長には敬語で話すよ……」


「……どういう用ですか?」


「今更戻されてもねぇ……違和感があるよ。もうタメ口でいいよ……」


学園長は軽く嘆息してそう言った。


「そうか……」


「それで、用って言うのはだな……又谷から聞いたと思うんだが地下室についてだ」


「先生は詳しくは話してれなかったぞ……」


「そうか……まぁその件は後で適切な処罰を下すとして、あの地下室は実は学園の殆どの人間に知られていない秘密の部屋なんだよ……」


「……? あぁ、大体理解できた。つまり、秘密を知った僕には死んでもらうと……」


「いやいやいや、そんなことはしないよ。じゃあ何をするかなんだけど……確か君は1年4組の生徒だよね? だから、今から君を1年1組の生徒とする!!」


学園長は、座っていた椅子から大きな音を立て立ち上がった。


「はぁ?……何故?」


理解不能故にそんな端的な疑問しか出てこない。


「殆どの人間は知らないと言ったけど実は各学年の最高クラスの人間は知ってるんだよ……だから1年1組に入れれば情報が漏れる可能性が低くなる」


「僕が仮に1年4組の生徒とかに言いふらしたらどうなるんだ?」


「その時は……然るべき対応をするさ。まぁ君はそんなことをしないよね?」


ほぼ脅しのようなその言葉に、僕は内心震えながらも頷いた。


「あと、君はあの薬を飲んだんだよね? どうだった?」


「ちょっと強くなった程度だった」


僕は直感で嘘を付くことにした。

本当のことを話したら何かヤバいことが起きる気がする。


「でも、侵入者には勝ったんだよね? 君の素の実力が高かったのかなぁ……」


「侵入に特化した能力だったから余裕だった。薬の効果もあったしな」


「そう……まぁ、それだけだから……もうここに来ることがないことを願ってるよ……またね!」


刹那、地面が液状化し、僕はいつもの廊下に戻ってきていた。

あの台詞を吐いてからあれを言うのは中々のサイコパスにしかできない所業だと思うのだが……


「帰し方もヤバいしもしかしてサイ……いや、これ以上口に出すのは良くない。この場所はプライベート空間ではないからな……さてと、教室にでも戻るかぁ」


僕は先程まで螺旋階段になっていた壁を少し見ると、足を教室の方向に向けた。

きっとこの時間なら寮に入っていない人は帰っているだろう。

僕は顔に夕日を受けながら歩を進めた。


◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆


 「お、帰ってきたか……」


教室に戻ると、情報を小出しにして自分だけさっさと逃げた無責任な先生が自分のデスクに座り、カチカチとキーボードを叩いていた。

先生以外には誰も居なく、朝の重い雰囲気はどこまでも紅い夕日にのみ込まれている。


「先生は、ここに残ってるんだな……」


「まあな、社畜だからな……特に教師は……別に職員室で仕事をしても良かったんだが……ここのほうがいいんだよ」


先生は、パソコンを見つめながらそう言った。


「屋上じゃないのか?」


「あそこはプライベート空間だ。仕事を持ち込んだら良くない」


先生にも先生なりの拘りがあるのだろう。

僕はそう納得することにした。


「あ、そう言えば学園長が……いや、直に分かるか……」


「復讐は一番無駄なことだ。分かったか?」


「青春ってのは無駄を楽しむものだろう?」


「あぁ、そう……もう夕方だ。暗くなる前に帰れ……この学園の夜はヤバいぞー?」


「そうだな……いつまでも馬鹿をやっているわけにもいかない……じゃあ仕事頑張れよ!」


「言われずともな……」


教室を出る前に軽く手を振ると、先生はそれを返してくれた。

なんだかんだ言っていい人何だよなぁ……

靴箱までの廊下を歩きながら、僕はそう思った。

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