第11話 薬
「どうだ……? その薬は……」
白衣の人が尋ねてくるが、僕は声を出せるような状態ではない。
全身に電流のようなものが迸り、体温が急激に上昇する。
その苦痛に耐えかね、思わずうずくまってしまう。
「お、おい! 大丈夫か?!」
「ま、まさかあの薬を飲ませたの?!」
二人の大きな声に、益々痛みが増していく。
「あぁ、そうだ。まぁこの学生がどうなろうがお前がここに居る必要性はなくなった筈だ。とっとと帰ってくれ」
「そ、それは無理な相談よ。帰ったとしても私はいずれ殺される……何も成果を得られなかったらね。だから、少しでもここの戦力を減らすわ。死にかけの人間とヒョロヒョロの男を殺すなんて造作もないことよ」
カチャリと白衣の人に銃が突きつけられる。
対して、僕は何をすることもできない。
「この世界にそこまでの恨みがあるのか……俺はそういう人間をイカれてる奴って言うんだ」
「何とでも言って! 引き金を引くには変わりないから」
侵入者は引き金に指をかけた。
「試作品だが『能力を強化する』薬を飲んだんだ。なんかこの状況を打開することはできないのか?」
白衣の人が最期の希望であろう僕にそう尋ねるが僕はうめき声を上げることしかできない。
「はぁ……無理か……まぁ、あの薬を処理できてよかったよ。俺はきっと天国に逝けるだろうな……さあ、殺るなら殺れよ」
刹那、バンッと鋭い銃声が木霊する。
誰であろうと人間というものは脆い生き物だ。
こんな金属の弾一つで簡単に死んでしまう。
白が赤に染まりつつある白衣の人がドサッと倒れた。
その瞬間、ここが戦闘の場であるということを認識させられた。
「……グッ……マジか……今更、痛みが引くのかよ……」
世界は時に残酷でいつ如何なる時も良いタイミングなんてものは奇跡でも起きない限りありえないのだ。
「なんか、力が湧き上がってくる……」
白衣の人と関わりが浅かった為か、殺されたとしても別になんとも思わない。
世界が残酷なら、自分も残酷でもなんらおかしくはない。
「先手必勝よ!」
そう言われ放たれた金属の弾丸が音速で僕に向かって飛んでくる。
しかし、僕の目の前に来ると不自然な方向に軌道がズレ、壁に穴を開けた。
「おぉ、これが……」
「嘘……完璧な軌道だったのに……これが強化された能力……? 無理だわ。勝てるわけがない」
ありえない出来事に、侵入者は困惑を露わにし、そしてパッと消えた。
「逃げるが勝ちってことか……面倒だな……」
侵入者は能力を発動し、身を隠した。
恐らく記憶に関連する能力だ。
逃げられると見つけるのは困難だろう。
しかし、先生は何らかの方法を使って見破った。
能力を強化された今の僕にはその方法を見つける程の力量がある筈だ。
「過去の記憶にはちゃんと存在していることから『自らの存在を一時的に記憶から消す』という能力だと思われる……だが、どう見破るかだな」
「……あぁ、そういうこと……」
薬のお陰で、頭も冴えているのか僕はそれを見破る術を思いついた。
僕は飛散しているガラス片を一つ拾い、見破るのに必要なスマホをポケットから出した。
「……写真を撮ればそれはもう僕の記憶じゃない。彼女の能力の範囲外だ。写ってしまうよな」
カシャリと僕はシャッターのボタンを押した。
しかし、撮れたのは部屋の様子だけで、侵入者は居ない。
「出て行ったか……ま、追うか」
僕は長い階段を駆け上った。
「ここで、もう一回撮っとくか」
荒れた現場を撮るなんてさながら警察みたいだな……
いや、幽霊を探している人にも見えるよな……
僕はそんなことを考える程の余裕を有していた。
慢心は敗北を生むと言うが今の僕はそれに当てはまらないだろう。
「おっと、写ったな……はは、かなり焦ってる」
僕は手に持ったガラス片に能力を乗せその場所に放つ。
すると、それは目に見えない速さで飛んでいき、何かを貫いた。
真っ赤な鮮血が飛び散ったかと思えば次に、そいつが姿を現した。
「チート能力者め……だが、逃げ切って……」
「おいおい、地べたに這いつくばってまだ逃げれるとでも思ってるのか? これ以上床を汚さないでくれ」
僕は侵入者を嘲笑する。
しかし、刹那、周囲に散乱していたガラス片が一気に四方八方に飛び散った。
予想外過ぎて当然、避けられるわけもなくガラスの弾丸が僕の皮膚を切り裂いていく。
辺りは紅に染まり、瞬く間にカーペットが敷かれているかのようになった。
「僕の強化された能力……『運命を捻じ曲げる』能力のデメリットか……はは、動けない……」
侵入者は、先程のガラスの嵐がトドメになったのかもう息絶えている。
事情聴取とかしたかったが、強い能力にはそれ相応のデメリットが加わる。
少なくともこうなることは予測できるようなものではなかったであろう。
薬の効果が切れたのか僕はそこで眠るように昏倒した。
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