第10話 追跡
もうどれだけの時間この学園内を探し回っただろうか。
一向に侵入者とやらは見つからない。
先生たちが言うのだから間違いは無いと思うのだが、これ程までに見つからないと流石に疑いざるをえないという状況だ。
「何処に居るんだよ!! マジで!!」
苛立ちからかついついそんな言葉が口から洩れ出る。
侵入者が相当な手練れなのか、あるいはそういう能力者なのか。
後者の場合、普通に探していてもまず見つからないだろう。
どう見つけるかを考えてから探し始めたら良かったなと僕は後悔をした。
「お! 皐月! 見つけたか?」
色々と思考していると、僕に声が掛けられる。
その声の正体は言わずもがな先生である。
「いや、何処にも居ない。先生は?」
「そうか……こっちもだ。恐らく、能力なんだろうな、潜入に向いている……」
「のんびりしてて大丈夫なのか?」
焦った声色さえない先生に、そう尋ねる。
そう言う僕も、意外とのんびりしてるんだが……
「問題はないさ。ただ、見つけれたらラッキー程度だな」
「そんな、アイスの当たり棒みたいな感覚でいいのか?」
「いいんだよ。中立的な立場だろう? まぁ、皐月が侵入者を捕まえたらクラスが上がって後々楽になるがな……でも、楽さを求めてはいないだろう?」
「僕はまだ探す。少しでも無いとあるではあったほうがいいからな」
「ま、記憶の隅々まで思い出したら見つかるんじゃないか? じゃ、頑張れよ」
そう言いながら先生は僕の横を通り、廊下の遥か彼方へと消えていった。
「思い出す、か……」
思い出したところでそれは過去の記憶に過ぎないのだが……
先生がそんな意味深なことを言うのには必ず理由がある。
先生は侵入者の能力が分かったのではないか、そんな憶測が脳に浮かぶ。
だとしたら、これは僕に対するテストということになる。
僕は先生に試されているのではないか……
僕はそれに気付くとより念入りに辺りを探し始めた。
「思い出す、思い出す……」
僕はそう呟きながら保健室を出てからここまでの記憶を回想する。
すると、ある違和感を覚えた。
「誰だ? こんな奴居たか?」
僕の記憶の所々に、見慣れない女性が居た。
朧気だが服装は明らかに生徒、先生が着るようなものではない。
「いや、こんなところに絶対に居なかった! こいつが侵入者だ!」
侵入者の能力は恐らく記憶に関連するものだろう。
だったら、記憶を辿ってそいつが向かっている場所を探ればいい。
僕は記憶の中で最初にそいつを見つけた場所まで走り出した。
◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆❖◆
数十分後、遂に僕はそこに辿り着いていた。
「ここに居るはずだ」
僕は実験室と書かれた看板が吊るされているドアを開けた。
瞬間に広がる薬品の臭い。
「荒らされてる……まぁ、これでここに居ることは確実になったな」
フラスコの破片や何らかの液体が飛散している。
侵入者は相当に焦っていたのだろうか。
「そこかしこにある破片を見る限りまだ室内に居る……お! 足跡があるじゃないか! 多分、塩酸の……」
僕は足跡を追った。
「なんだ? 地下、とかあるのか? この学園に……」
足跡は下へ向かう階段へと続いていた。
しかし、この学園に地下があるなんて聞いたことがない。
「……とにかく、追うか」
僕はその階段を下り始めた。
そして、下り切ると目の前には半開きのドアがあった。
僕は恐る恐る、その隙間から中を覗く。
「……誰か居る……」
そこには、全身を白衣に包んだ医者のような人間が居た。
「なんで手を上げてるんだ?」
そこで、僕の頭に閃光が迸った。
「まさか……居る、のか? もう一人……そいつに銃かなんかを突きつけられているのか?」
恐らく白衣の人はこの学園の先生で、僕の死角に侵入者が居ると思われる。
明らかに危機的状況だ。
「は、速くあの薬の場所を教えて!! 貴方は今、銃を突きつけられているのよ?!」
侵入者と思われる人間の叫びに近い声が響いた。
僕はもう少し状況を探ろうと聞き耳をたてることにした。
「俺の発明品には指一本触れさせない。あれが動くと世界が悪い方向に動くのは火を見るよりも明らかだ」
白衣の人間は危機的状況に置かれているとは思えない程、落ち着いた声を発した。
「なるほど、そういう状況ね……」
いまいち分からないが取り敢えずそう考えることにした。
相手の武器は銃だ。
僕が出ても殺されるだけだろう。
しかし、出ないわけにもいかない。
僕はドアを思いっきり蹴り飛ばし、室内に入った。
「なッ!」
両者が、驚きの声を洩らす。
僕はその瞬間に白衣の人の後ろに隠れる。
侵入者はこの人を撃てないと見た。
「き、君は誰だ? 何故ここに居る……まぁ、丁度いいか。これを飲んでくれ」
白衣の人はそう言って僕に何処からともなく取り出した薬品入りのフラスコを渡した。
いや、マジで飲みたくないのだが、状況が状況な為、飲まなければならない。
僕は思い切ってそれを一気に飲み干した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます